ドアの向こうに橙輝がいると思っただけで
顔が赤らんでいるのが、鏡越しに分かった。


急いで服を着てドアの前に立つ。


ここから、このドアの先から橙輝の気配がする。


手を伸ばせばいつでも触れられる。


このドアを開ければ、橙輝がいる。


そう思うのに、麻美さんの存在が
ちらついて葛藤する。


結局あたしは溜息をついてドアを静かに開けた。


「ずっとそこにいると風邪引くよ。橙輝」


「お前こそ、湯上りなんだから気を付けろよ」


「うん」


大丈夫。


あたし、普通に喋れる。


ほっと一息つくと、橙輝は口を開いた。


「松田、どう思う?」


「えっ?どうって?」


「どんな印象?」


「どうって言われてもなぁ。
 優しそうで面白い人……かな?」


あたしが答えると、橙輝はしばらく考え込んで、
それからまたあたしの目を見た。


「あいつ、いいやつだからさ、
 仲良くしてやってくれよ」


「……うん」


「それでさ、あのー……」


「なによ」



橙輝は言いにくそうに頭をかく。


軽く目を逸らして、口をパクパクさせる。


首を傾げているとようやく決心したのか、
橙輝はゆっくりと息を吸った。


「考えてみたんだけどさ、
 お前、松田と付き合えば?」


「……は?」