「おう、今日は鍋か!」
下へ下がっていくと、
橙輝が鍋を覗いていた。
うんと頷くと、松田くんがにっこりと笑う。
「百瀬の手料理か!」
「手料理って言っても鍋だけどね」
「なんだよ。鍋だって十分手料理だろ!」
「そうかな」
松田くんがいてくれて、
今は助かったのかもしれない。
波乱の二人きり生活を送るには少し不安だった。
男の人でも、一応第三者がいてくれて
良かったと思う。
テーブルに鍋を乗せると、
橙輝と松田くんは揃って手を合わせた。
当たり前のことなんだろうけれど、
今時の男子高校生が
こうして綺麗に手を合わせるのって、珍しい。
二人とも育ちがいいんだなぁ。
あたしなんか、よくお母さんに
怒られたりしてたのに。
なんて思うと笑ってしまう。
あたしが笑うと、二人は顔を見合わせた。
「さ、食べよう」
不思議と、笑顔になる。
今日あったことを忘れてしまうくらいに。
今は考えるのは止めよう。
こうして笑えているんだ。
忘れて水に流してしまおう。
今日の嫉妬心は簡単には消えることはない。
それは分かっている。
でも、知らないフリをしてしまおう。
この気持ちに蓋をして、
二度と開けないように努めよう。
そうしてしまえば、きっと大丈夫。
大丈夫だと思ったんだ。