松田浩平。
彼はそう名乗った。
松田くんはあたしが自己紹介を聞いていなかったのにも
ちゃんと気付いていて、
改めて自己紹介してくれたんだ。
結構いい人なのかも?
ぼうっと松田くんを眺めていると、
橙輝が声をあげた。
「百瀬。いいからお前は着替えてこい」
「あ、うん」
二階へと押しやられて、
あたしは部屋に戻った。
いつもの服に着替えて下に降りていくと、
松田くんと橙輝が楽しそうに喋っているところだった。
「百瀬には内緒な?」
「分かってるよ」
「絶対だぞ?」
「何が内緒なの?」
あたしが声をかけると、
二人は肩を震わせてこちらを振り返った。
二人とも作った笑顔がぎこちない。
あたしが首を傾げると、橙輝が立ち上がった。
「おい、百瀬。松田は今日
泊まっていくことになったからな」
「え、えぇ?泊まるの?」
「ダメか?」
「だ、だめじゃない、けど」
「まあお前は気にするな。ご飯は俺が準備するし」
「え、いいよ。あたしがやる」
「そうか?」
「うん」
チラッと松田くんを見ると、
松田くんは少し視線を逸らした。
変なの。
人がこの家に泊まるなんて考えもしなかった。
一体どうなるんだろう。
冷蔵庫の中身を確認して献立を考える。
キッチンに立って洗い物をしていると、
松田くんと橙輝はテレビを見て何か喋っていた。
二人の会話がとても気になる。
だけど視線を向けると二人は
はぐらかすように逸らしてしまう。
何だっていうのよ。
コソコソと。