月光 ~すべてのひとかけら~

「お前が榎本の彼氏かよ。やってやるよ!」


こんな恐ろしいオーラを放ってる叶翔さんに立ち向かう勇敢な彼ら。


叶翔さんは、何てことないような感じで、あっさり全員を気絶させてしまった。


恐るべし叶翔さん…。


「ナイスタイミングやわ叶翔。あの人数一人で相手できるか内心ビビッとってん」


……異次元な会話だ…。


「というか〝俺の莉桜〟とか照れるわぁ」


あっけらかんとした人だとは思ってたけど、ここまでとは……。


「……んなこと言ってねぇ。耳鼻科行ってこい。おい帰るぞ」


叶翔さんが私の方を見て言った。
「あ…うん…っ」


なんか…私邪魔だよね。


莉桜と叶翔さんの……。


「なぁ、悠瞳。叶翔言っとったやんな?〝俺の莉桜〟って」
  

「言って─」


「言ってねぇから」


あの叶翔さんが照れてる。


「言っとったやんなぁ?」


「……うるせ。言って悪いかよ。事実だろ」


っ!!


私が言われたわけじゃないのに、胸がドキドキする。


なのに当事者の莉桜は……。


「うち叶翔の物になった覚えないし。残念でしたぁっ」


とニヤニヤ。


「てめぇ。助けにくんじゃなかったな」
……私なんて入る隙なし…か。


二人には二人の空気があって……。


お互いツンデレな一面もあって…。


99%ツンだけど…本当はお互いのことを大切に思ってるんじゃないかな……。


…なんでだろうね。


胸が痛い。


この感情には覚えがあるんだ。


永蔵先生が他の部員やクラスメートと楽しそうに喋ってるのを見てた時の感情なんだ。


それはつまり……。


私は叶翔さんに惹かれてる。
「そういえば、あの時なんで叶翔さん助けに来てくれたんだろう」


今日は莉桜の家で女子会。


二人でだけどね。


あの日から3日が経った。


恋を自覚した日から…。


「あー。前々から噂になっとってん。アイツらがうちを狙うって。だから出かけるときは位置情報をわざと公開しててんな?それに叶翔が気づいてくれたっていう」


頬が緩む莉桜。


「たまには役に立つもんやなぁ」


またツンツンしてるけど、本当は嬉しいはずだ。


「……そーそー。うち、援交やってんねん。まぁオッサンらの相手はせぇへんけど、若者狙ってな」
そういうところが莉桜らしいな…。


「…実家への仕送り。バイトはしてんねんけど、それだけやと仕送りできへんから」


仕送り……?


お父さんが働かない人だって言ってたもんね…。


「で、情報漏洩ってのはアイツらの誤解。訂正すんのもめんどいから何も言わんかったけど。たぶんうちの他にもいろんな女抱いとんやろな」


叶翔さんは全部知ってたんだ。


だから〝俺らのことに首突っ込むな〟って言ってたのかな。


莉桜の事情を知ってるから。


「こんなうちが嫌やったら友達やめてくれて大いに結構。好きにしてえぇよ」


「やめるわけないじゃん…!やめないよ…。だって莉桜は、私の唯一無二の友達だもん」
私なんかと仲良くしてくれるのは、莉桜だけ。


莉桜は大切な大切な友達…。


「軽蔑せぇへん?」


いつになく不安そうな莉桜を見てると、つい抱きしめてしまった。


「するわけないよ」


抱きしめて改めて思うけど、細すぎ。


こんな細いのにあんなに強いのはすごい。


「あーよかったよかった。嫌われたらどうしようかと思ったわ」


軽く言って笑ってるけど、本当はとても不安だったはず。


莉桜は、強がりだけなのかもしれないな。


「あ、そーや。ケーキ買ってきたんやった」


莉桜が立ち上がって冷蔵庫に近づく。


「あっ!?何でないねん!?」


え…ケーキ消失?


「叶翔の仕業や…。アイツ午前中までうちん家おったから……」
怒りでワナワナ震える莉桜。


「まぁまぁ…。ケーキはいつでも食べれるよ」


叶翔さんの家に今すぐにでも殴り込みに行きそうな勢いだ。


「ホンマムカつく……。次会ったらぶっ殺したる」


その前に叶翔さんにぶっ殺されそう…。


あのオーラだけで人を殺せそうだもん……。


♪♪


莉桜のスマホが鳴った。


「【ケーキ美味かった】やと!?ホンマ腹立つー!!」


スマホをソファに向かってぶん投げた莉桜。


おー怖。


「あー腹立つ。あーイラつく。あームカつく」


冷蔵庫の扉をバタン!!と閉めて私の隣に座り直す。


恐ろしいオーラが溢れてる…。


「あ…で、でもこの前助けてくれたお礼みたいな風に受け取っとけばいいじゃん」


うまくフォローしたつもりだったけど、莉桜は不服そうだ。


「なんでうちが礼せなあかんの」
助けに来てたとき、嬉しそうな顔してたくせにぃ。


「ツンデレだね、莉桜」


ツンの要素が多めだけどね。


「ツ…ツンデレ!?そんなんちゃうわっ!うちがいつデレデレしとんねんっ」


頬を赤く染めて否定する莉桜。


可愛いなー。


ムキになって言い返してくるのが可愛いし、面白いからいじりたくなるのかな。


叶翔さんの気持ちがわかった気がする。


「叶翔さんのこと本当に好きそうだもん」


「……そりゃ、好きにきまってるやん…」


初めて会ったとき、莉桜本気で私に嫉妬してたよね。


「〝アンタか!うちの叶翔を奪おうとしとんのは!〟って怒鳴り込んで来たよね」


私が言えば、莉桜はますます顔を赤くして俯いた。
「黒歴史やわ。恥ずかし~っ」


パタパタ顔を手で扇ぐ莉桜。


「でも、今でも思ってんで。叶翔を彼氏にしようとか考えてる女は許さへんって」


……そうだよね。


私だって、自分の気持ちに気づいたからと言って莉桜の邪魔をしたりはしない。


「あんな男彼氏にしたいとか思ってる女は頭おかしいよな。あんな男の何がえぇねん」


口悪いけど、やっぱり愛がこもってる。


いいなぁ……。


「……でもな、うちが他の男らに抱かれてるって知ってて何も言わへん叶翔はホンマに優しい。うちやったら我慢できへん」


裏路地で言ってたことはこういう意味だったんだ。