「痛てぇ。」
「早く起きなさい。朝ごはんあるよ。」
「はい。」
僕には居場所なんてなかった。2年前にやっと出来たくらいだ。
家では邪魔扱いをされている。おかげで、毎朝腹をけれてたり、殴られたりして起こされる。1人で起きられるのに、痛めつけるためだけに起こしてくる。頭の良い姉に比べ、勉強もスポーツも出来ない。でも、永見家には必要とされていない芸術の才能がある。僕にはいらない才能かもしれない。
「早く食べなさい。早く学校に行きなさいよ。邪魔なんだから。」
「はい。」
食べると言っても、他のみんなよりも少ないご飯だ。おかげで僕はやせ細っていて、アザだらけだ。食べ終わったら着替えたり歯磨きをしたら、荷物はもう玄関にある。そして毎朝、母と姉に殴られ、蹴られてから出る。
「早く行けよ!マジ、帰ってこないと困るからね?私のストレス発散にね。」
姉は、勉強でのストレスを僕に暴力でぶつけてける。昨日は、階段から突き落とされてきつく縛り付けられて、殴られて蹴られまくった。おかげで足が痛い。その痛い足を懸命に動かし、重い足取りで学校に行く。学校にも居場所なんてある訳がなかった。
なぜなら、父親は殺人犯で自殺した人だからだ。犯罪者の子供だからという理由で、いじめられ始めた。いじめられ始めたのは、小学1年生の時だった。その後もずっといじめられている。
昇降口に着いて、自分の上履きがないのはいつもの話。今日は何処にあるのだろうか?
「アレやばくね?」
「どうせ永見のだろ?」
「そうだな。」
と、トイレから出てきた奴らの会話が聞こえた。僕は、靴下のままトイレに入った。便器の中に上履きが突っ込んであった。僕は、それを引き上げ、雑巾で拭いた。
「あれ?どうしたのかな?永見君。」
と、待ち構えていたいじめの主犯者が僕に言った。僕は無視をして拭き続けた。
「あれ?無視?まあいっか!今日は、永見君を、授業に出させる気は無いからね?」
「ど、どういうこと?」
「じゃあ、実際にやって教えてあげる!」
と言ったら、一緒にいた4人ほどの男子の1人が僕を押さえつけた。その後、他の男子が僕のことをきつく縛った。口もふさがれた。
「じゃあ、ウォーミングアップ始めるか!」
主犯者がそう言うと、皆が僕をけったり殴ったりし始めた。
「ヴッ!」
ヤバい、苦しい。でも、僕を殴り、蹴り続けた。
「ちょっとヤバくね?」
と1人のやつが言った。多分、僕の意識が朦朧としてることに気がついんだろう。
「じゃあ、口のだけどるか!」
と言って口につけていたガムテープを取った。
「ハァハァハァハァ。ケホッ。」
僕は、もうろくに息が吸えてなかった。酸素が体に取り込めずに朦朧としていた。
「あと何発がやるか!」
く、苦しい。息が…。
「ハァハァハァハァハァハァ。もう、む…り…。」
「ヤバくね?…ぬん…ね?」
あぁ、意識が飛ぶ。もう、何も聞こえない…。
ガチャ!ドスッ!
「1時間落ちてたのかよ!」
いつの間に1時間経ったのかよ。トイレの掃除ロッカーに閉じ込められていたらしい。いつの間に口にガムテープを…。
「あぁ、今日さぁ、俺、塾あるからさぁ、早く帰りてぇから今日は解放して終わりな!」
「まぁ、こんな貧乏馬鹿と違って、俺ら塾あっからよ!」
と言ってあいつらは笑った。そして僕を解放すると、僕を突き飛ばしてトイレを出た。
僕も帰ろうと思い、荷物を持って痛い足を引きずってトイレを出た。
「ねぇ、大丈夫?」
突然、女の子に声をかけられた。誰だろう?こんな人、いたっけ?
「え、あ、あの……。」
「あっ、私のこと知らない?」
「う、うん。」
「一応、同じクラスなんだけどな。」
と言って彼女は、恥ずかしそうに下を向いた。
「えっと、奏也くんと同じクラスの葛葉誌野です。よろしく。」
「よ、よろしく。」
葛葉詩野との最初の会話は、こんな、ぎこちない会話だった。
「で、大丈夫なの?」
と、葛葉詩野は心配そうに言った。
「えっと、うん。」
僕は下を向いて答えた。本当は大丈夫じゃないほど痛いのに、そんなことすら忘れてしまうほど僕は緊張していた。
「ねぇ、奏也くんって歌の丘、知ってるよね?もしかして、いつも歌ってるの?」
と、葛葉詩野はきいてきた。何で歌の丘を知ってるのだろうと疑問に思った。僕は不思議そうな顔をして頷いた。
「ねぇ、私も行っていいかな?」
葛葉詩野は何がしたいのだろう?また疑問が増えた。別に、あの丘は僕と歌音だけの場所ではない。何故僕に許可を得てから行くのかわからないけど、僕は頷いた。
「じゃあ、一緒に行こう!今日から。」
「えっ!?うん。」
葛葉詩野は毎日一緒に行く気なのか!?こんな僕と。こんなに明るくて優しい人ならば、もっとたくさんの友達がいるのではないか?僕なんかと一緒にいることで、いじめられないか?僕はそんな心配をしながら、昇降口に行った。
「ねぇ、呼び方、奏也くんでいいよね?」
突然の質問に驚きつつ、僕は答えた。
「えっと、奏也でいいよ。じゃあ、詩野でいい?」
「うん、いいよ。」
僕はなんか嬉しくて、なんか気持ちが弾んだ。僕の日常で、こんなことがあっていいのか?とも思ったけど、たまには許されるのではないか?とも思った。僕はボロボロになった靴を取り出し、2人で外に出た。お互いのことを全然知らないのに、不思議と2人の空気は軽かった。
「ねぇ、奏也のこと知りたいな。」
と、詩野は優しい笑顔を向けて僕に言った。僕も詩野のことを知りたいと思った。
「ずっと疑問に思ってたんだけどさ、奏也って何でいじめられてるの?」
僕は、予想もしてなかった質問に驚いて少し足を止めてしまった。
「あっ、ごめん。言いたくなかったら言わなくていいの。」
「ごめん、大丈夫。僕がいじめられてるのはね、父親のせいなんだ。」
「お父さん?」
「うん。」
僕は、下を向いたまま話を続けた。
「父親はある日突然、殺人事件を起こしてしまったんだ。詳しくは僕も知らない。ただ、殺人をして自殺をしたという事実だけを知っている。それが原因で僕はいじめられている。」
「奏也は何も悪くないのに……。」
と、詩野は悔しそうに言ったら
「何故、詩野のことじゃないのにそんなに悔しそうにしてるの?」
と、僕は思ったことを言った。
「奏也は愛を知らない?」
と、詩野は言った。僕は愛なんて、感じたことがなかった。僕がさらに下を向くと
「他の家族は?」
と、心配そうにきいてきた。
「母と姉がいるよ。ただ……。」
と言って、僕は言うべきなのか迷った。詩野は本当に、信用していい人なのか分からなかった。僕は、人を信用したことがなかった。
「えっとぉ……、言いにくかったら言わなくていいよ。でも私、奏也に幸せになって欲しいから。」
「な、何で僕なんかに?」
「え?だって、奏也は優しくて綺麗な心を持ってる。私は、そういう人が幸せになるべきだと思うから。」
その言葉を聞いた時、詩野を疑った僕を殴りたくなった。なんて綺麗で素敵な心を持っているんだろうと、心から思った。
今まで出会った人とはまるで違う。
「あ、ありがとう。実はね、僕の母と姉は僕を嫌っているんだ。」
「え?実の家族なんじゃないの?」
「実の家族だよ。でも、僕を嫌い、毎日殴り、蹴り、食事も少なくされる。僕はもう……いらないんだ!」
と、僕は泣きながら言った。僕が存在しても、誰も幸せになんてならないんだ。
「そんなことない!他の皆よりも綺麗だよ。濁りのない純粋な瞳。そんな瞳は見たことがないよ。少なくとも、私は奏也を必要としてるよ。だから……だから!奏也はいなくてはいけないの!いなければならないの!」
僕の目からは涙が溢れた。僕を必要としてくれる人がいるなんて思ってもいなかった。
詩野は僕をそっと抱きしめてくれた。
こんな温もりを感じる日が来るなんて、こんな温もりを与えてくれる人がいるなんて思っていなかった。
「私、奏也がそんなに辛い思いをして生きてきたなんて思ってもなかったよ。辛かったね。でも、私がいるから。私を信じて。それで、私と奏也で笑って生きよう。いい?」
と、詩野は小声で優しく言ってそっと涙を流した。彼女の涙はすごく綺麗だった。
「いいよ。ありがとう。じゃあ、歩こうか。」
「そ、そうだね。丘に行こう。」
と言って詩野はそっと手を離した。
「ねぇ、さっきから足、引きずってるけど、痛いの?」
「う、うん」
と僕は答えてズボンをまくった。僕の足にはたくさんのアザがある。そして、骨折も何回かしてる感じがある。つまり、僕の体はボロボロだ。
「い、痛そう。大丈夫?無理しないでね?」
「うん。家族や学校での暴力が原因なんだ。心配かけてごめんね。」
「謝らなくていいんだよ。」
「結局、僕が気に入らない人達が悪いんじゃなくて、僕が気に入られないのが悪いんだ。」
「そんなことない!奏也は何も悪いことなんてしてない!むしろ、優しくて私のつまらない日々をこうして奏也のおかげで変わろうとしている。」
「ありがとう。そう言ってくれるのは詩野だけだよ。ところで、詩野のつまらない日々って一体どうしたの?」
「そ、それは……」
顔を上げて、笑顔で話していた詩野が突然俯いた。
「あ、無理してこたえなくていいんだ。ただ、気になっただけなんだ。」
「大丈夫。奏也に言わせておいて自分が言わないのは許せないから言うよ。奏也に比べたら、そんなに辛くないと思う。でも、クラスでいじめられていてね、学校が辛いんだ。物を隠されたり、スープかけられたり、無視されたり、暴力奮われたりしてさ、意味わかんないよね。ただね、私は孤児なの。ただそれだけだよ?孤児だけど強く生きていこうとしているのに……。」
そう言って詩野は悔しそうにした。
奏也はなんて言ったらいいのかわからなくなった。
孤児だなんて、僕なんかよりもずっと辛いじゃないのか?
そう思った。
「僕なんかよりもきっと辛いよね?僕はただ、暴力を奮われるだけだもん。きっと詩野の方が泣きたい気持ちは大きいはずなんだよ。」
「孤児だから?私、孤児だって言っても親の記憶がないし、施設にも友達がいっぱいいるから寂しくないんだ。」
「そっか……。施設は楽しい?」
「うん」
「それなら良かった。」
そう話している間に丘が見えてきた。
「あ、丘だ。」
「あそこなんだぁ。」
と、さっきとは違ってワクワクした声が上がった。
その丘では一人の少女が二人のことを待っていた。
「早く起きなさい。朝ごはんあるよ。」
「はい。」
僕には居場所なんてなかった。2年前にやっと出来たくらいだ。
家では邪魔扱いをされている。おかげで、毎朝腹をけれてたり、殴られたりして起こされる。1人で起きられるのに、痛めつけるためだけに起こしてくる。頭の良い姉に比べ、勉強もスポーツも出来ない。でも、永見家には必要とされていない芸術の才能がある。僕にはいらない才能かもしれない。
「早く食べなさい。早く学校に行きなさいよ。邪魔なんだから。」
「はい。」
食べると言っても、他のみんなよりも少ないご飯だ。おかげで僕はやせ細っていて、アザだらけだ。食べ終わったら着替えたり歯磨きをしたら、荷物はもう玄関にある。そして毎朝、母と姉に殴られ、蹴られてから出る。
「早く行けよ!マジ、帰ってこないと困るからね?私のストレス発散にね。」
姉は、勉強でのストレスを僕に暴力でぶつけてける。昨日は、階段から突き落とされてきつく縛り付けられて、殴られて蹴られまくった。おかげで足が痛い。その痛い足を懸命に動かし、重い足取りで学校に行く。学校にも居場所なんてある訳がなかった。
なぜなら、父親は殺人犯で自殺した人だからだ。犯罪者の子供だからという理由で、いじめられ始めた。いじめられ始めたのは、小学1年生の時だった。その後もずっといじめられている。
昇降口に着いて、自分の上履きがないのはいつもの話。今日は何処にあるのだろうか?
「アレやばくね?」
「どうせ永見のだろ?」
「そうだな。」
と、トイレから出てきた奴らの会話が聞こえた。僕は、靴下のままトイレに入った。便器の中に上履きが突っ込んであった。僕は、それを引き上げ、雑巾で拭いた。
「あれ?どうしたのかな?永見君。」
と、待ち構えていたいじめの主犯者が僕に言った。僕は無視をして拭き続けた。
「あれ?無視?まあいっか!今日は、永見君を、授業に出させる気は無いからね?」
「ど、どういうこと?」
「じゃあ、実際にやって教えてあげる!」
と言ったら、一緒にいた4人ほどの男子の1人が僕を押さえつけた。その後、他の男子が僕のことをきつく縛った。口もふさがれた。
「じゃあ、ウォーミングアップ始めるか!」
主犯者がそう言うと、皆が僕をけったり殴ったりし始めた。
「ヴッ!」
ヤバい、苦しい。でも、僕を殴り、蹴り続けた。
「ちょっとヤバくね?」
と1人のやつが言った。多分、僕の意識が朦朧としてることに気がついんだろう。
「じゃあ、口のだけどるか!」
と言って口につけていたガムテープを取った。
「ハァハァハァハァ。ケホッ。」
僕は、もうろくに息が吸えてなかった。酸素が体に取り込めずに朦朧としていた。
「あと何発がやるか!」
く、苦しい。息が…。
「ハァハァハァハァハァハァ。もう、む…り…。」
「ヤバくね?…ぬん…ね?」
あぁ、意識が飛ぶ。もう、何も聞こえない…。
ガチャ!ドスッ!
「1時間落ちてたのかよ!」
いつの間に1時間経ったのかよ。トイレの掃除ロッカーに閉じ込められていたらしい。いつの間に口にガムテープを…。
「あぁ、今日さぁ、俺、塾あるからさぁ、早く帰りてぇから今日は解放して終わりな!」
「まぁ、こんな貧乏馬鹿と違って、俺ら塾あっからよ!」
と言ってあいつらは笑った。そして僕を解放すると、僕を突き飛ばしてトイレを出た。
僕も帰ろうと思い、荷物を持って痛い足を引きずってトイレを出た。
「ねぇ、大丈夫?」
突然、女の子に声をかけられた。誰だろう?こんな人、いたっけ?
「え、あ、あの……。」
「あっ、私のこと知らない?」
「う、うん。」
「一応、同じクラスなんだけどな。」
と言って彼女は、恥ずかしそうに下を向いた。
「えっと、奏也くんと同じクラスの葛葉誌野です。よろしく。」
「よ、よろしく。」
葛葉詩野との最初の会話は、こんな、ぎこちない会話だった。
「で、大丈夫なの?」
と、葛葉詩野は心配そうに言った。
「えっと、うん。」
僕は下を向いて答えた。本当は大丈夫じゃないほど痛いのに、そんなことすら忘れてしまうほど僕は緊張していた。
「ねぇ、奏也くんって歌の丘、知ってるよね?もしかして、いつも歌ってるの?」
と、葛葉詩野はきいてきた。何で歌の丘を知ってるのだろうと疑問に思った。僕は不思議そうな顔をして頷いた。
「ねぇ、私も行っていいかな?」
葛葉詩野は何がしたいのだろう?また疑問が増えた。別に、あの丘は僕と歌音だけの場所ではない。何故僕に許可を得てから行くのかわからないけど、僕は頷いた。
「じゃあ、一緒に行こう!今日から。」
「えっ!?うん。」
葛葉詩野は毎日一緒に行く気なのか!?こんな僕と。こんなに明るくて優しい人ならば、もっとたくさんの友達がいるのではないか?僕なんかと一緒にいることで、いじめられないか?僕はそんな心配をしながら、昇降口に行った。
「ねぇ、呼び方、奏也くんでいいよね?」
突然の質問に驚きつつ、僕は答えた。
「えっと、奏也でいいよ。じゃあ、詩野でいい?」
「うん、いいよ。」
僕はなんか嬉しくて、なんか気持ちが弾んだ。僕の日常で、こんなことがあっていいのか?とも思ったけど、たまには許されるのではないか?とも思った。僕はボロボロになった靴を取り出し、2人で外に出た。お互いのことを全然知らないのに、不思議と2人の空気は軽かった。
「ねぇ、奏也のこと知りたいな。」
と、詩野は優しい笑顔を向けて僕に言った。僕も詩野のことを知りたいと思った。
「ずっと疑問に思ってたんだけどさ、奏也って何でいじめられてるの?」
僕は、予想もしてなかった質問に驚いて少し足を止めてしまった。
「あっ、ごめん。言いたくなかったら言わなくていいの。」
「ごめん、大丈夫。僕がいじめられてるのはね、父親のせいなんだ。」
「お父さん?」
「うん。」
僕は、下を向いたまま話を続けた。
「父親はある日突然、殺人事件を起こしてしまったんだ。詳しくは僕も知らない。ただ、殺人をして自殺をしたという事実だけを知っている。それが原因で僕はいじめられている。」
「奏也は何も悪くないのに……。」
と、詩野は悔しそうに言ったら
「何故、詩野のことじゃないのにそんなに悔しそうにしてるの?」
と、僕は思ったことを言った。
「奏也は愛を知らない?」
と、詩野は言った。僕は愛なんて、感じたことがなかった。僕がさらに下を向くと
「他の家族は?」
と、心配そうにきいてきた。
「母と姉がいるよ。ただ……。」
と言って、僕は言うべきなのか迷った。詩野は本当に、信用していい人なのか分からなかった。僕は、人を信用したことがなかった。
「えっとぉ……、言いにくかったら言わなくていいよ。でも私、奏也に幸せになって欲しいから。」
「な、何で僕なんかに?」
「え?だって、奏也は優しくて綺麗な心を持ってる。私は、そういう人が幸せになるべきだと思うから。」
その言葉を聞いた時、詩野を疑った僕を殴りたくなった。なんて綺麗で素敵な心を持っているんだろうと、心から思った。
今まで出会った人とはまるで違う。
「あ、ありがとう。実はね、僕の母と姉は僕を嫌っているんだ。」
「え?実の家族なんじゃないの?」
「実の家族だよ。でも、僕を嫌い、毎日殴り、蹴り、食事も少なくされる。僕はもう……いらないんだ!」
と、僕は泣きながら言った。僕が存在しても、誰も幸せになんてならないんだ。
「そんなことない!他の皆よりも綺麗だよ。濁りのない純粋な瞳。そんな瞳は見たことがないよ。少なくとも、私は奏也を必要としてるよ。だから……だから!奏也はいなくてはいけないの!いなければならないの!」
僕の目からは涙が溢れた。僕を必要としてくれる人がいるなんて思ってもいなかった。
詩野は僕をそっと抱きしめてくれた。
こんな温もりを感じる日が来るなんて、こんな温もりを与えてくれる人がいるなんて思っていなかった。
「私、奏也がそんなに辛い思いをして生きてきたなんて思ってもなかったよ。辛かったね。でも、私がいるから。私を信じて。それで、私と奏也で笑って生きよう。いい?」
と、詩野は小声で優しく言ってそっと涙を流した。彼女の涙はすごく綺麗だった。
「いいよ。ありがとう。じゃあ、歩こうか。」
「そ、そうだね。丘に行こう。」
と言って詩野はそっと手を離した。
「ねぇ、さっきから足、引きずってるけど、痛いの?」
「う、うん」
と僕は答えてズボンをまくった。僕の足にはたくさんのアザがある。そして、骨折も何回かしてる感じがある。つまり、僕の体はボロボロだ。
「い、痛そう。大丈夫?無理しないでね?」
「うん。家族や学校での暴力が原因なんだ。心配かけてごめんね。」
「謝らなくていいんだよ。」
「結局、僕が気に入らない人達が悪いんじゃなくて、僕が気に入られないのが悪いんだ。」
「そんなことない!奏也は何も悪いことなんてしてない!むしろ、優しくて私のつまらない日々をこうして奏也のおかげで変わろうとしている。」
「ありがとう。そう言ってくれるのは詩野だけだよ。ところで、詩野のつまらない日々って一体どうしたの?」
「そ、それは……」
顔を上げて、笑顔で話していた詩野が突然俯いた。
「あ、無理してこたえなくていいんだ。ただ、気になっただけなんだ。」
「大丈夫。奏也に言わせておいて自分が言わないのは許せないから言うよ。奏也に比べたら、そんなに辛くないと思う。でも、クラスでいじめられていてね、学校が辛いんだ。物を隠されたり、スープかけられたり、無視されたり、暴力奮われたりしてさ、意味わかんないよね。ただね、私は孤児なの。ただそれだけだよ?孤児だけど強く生きていこうとしているのに……。」
そう言って詩野は悔しそうにした。
奏也はなんて言ったらいいのかわからなくなった。
孤児だなんて、僕なんかよりもずっと辛いじゃないのか?
そう思った。
「僕なんかよりもきっと辛いよね?僕はただ、暴力を奮われるだけだもん。きっと詩野の方が泣きたい気持ちは大きいはずなんだよ。」
「孤児だから?私、孤児だって言っても親の記憶がないし、施設にも友達がいっぱいいるから寂しくないんだ。」
「そっか……。施設は楽しい?」
「うん」
「それなら良かった。」
そう話している間に丘が見えてきた。
「あ、丘だ。」
「あそこなんだぁ。」
と、さっきとは違ってワクワクした声が上がった。
その丘では一人の少女が二人のことを待っていた。