とある丘での出来事だ。その丘は、通称『歌の丘』。歌音は毎日その丘で歌っている。その歌で『歌の丘』と呼ばれるようになった。歌音とこの場所で出会ったのは2年前の7月8日。
僕はこの丘で大声で叫びながら泣いていた。歌のコンクールで、予選敗退したからだ。丘を横切る人は、僕を変な目で見ていた。ふと、突然、少女がハンカチを差し出してした。
「ねぇ、どうしたの?泣かないで…。」
僕はハンカチを受け取り、涙を拭ってコンクールの話をした。
「そっかぁ。君は歌が好きでやってるのかな?私も、歌が好きなんだ。でも、コンクールには出たことないよ?それほどの実力があるってことじゃん!凄いよ!負けてもさ、惜しかったんでしょ?じゃあ、次ならきっと本戦にいけるよ!私も応援するから!」
「…うん。ありがとう。」
「いえいえ、私の名前は歌音よ!あなたは?」
「僕の名前は、奏也。」
「私はいつもここに来て歌ってるの。だから、私に会いたい時はここに来てね。」
僕は頷いた。
「じゃあ、僕と一緒に歌ってくれるかな?」
「何故?」
「約束の歌。」
「いいよ。」
僕はこの日に初めて、人と歌うことの楽しさを知った。
僕はその後、毎日この丘に来ている。僕にとっても、歌音にとっても、ここは思い出の場所。ここは、二人の『歌の丘』なんだ。