ハッキングを終え、パソコンを閉じた。
ーー「………」
話を続けろと伝えたはずだが、
律も瑠樹も華月の5人も話すどころか私の事をガン見している。
黒蛇についているのは、当然異端の伊東の傘下の幾つかのだった。
パソコンを元の場所に戻し、瑠樹の隣に座る。
西東、八幡、伊東組が確実についており、
西東は白蛇を。八幡は毒蛇と、黒蛇の兄弟族のバックについていた。
白蛇は長男純平、黒蛇は次男大我、毒蛇は三男大輝と、
戸賀という伊東の傘下ではなく同盟関係にある異端の組の三兄弟がそれぞれ総長をしているらしい。
「雪香、今のってもしかして、ハッキング?」
沈黙の中律に問い掛けられた。
情報は提供しようか迷うが、何せ相手が相手だ。
黒蛇が動くなら伊東も時期動く。
誰がどう動こうとも、いずれ白蛇、毒蛇も混ざってここ青龍に攻めてくるだろう。
何せ黒蛇、白蛇、毒蛇はどれも全国No.1という地位を欲している。
亜夢はそのスパイとも考えられる。
話し合いに参加し、尚かつ発言力のある姫なのだから。
律、瑠樹、玲は亜夢を信じた事を後悔した様子で、
私にとっては自覚してくれた事と情が移った事もあり3人が大事にする青龍は潰させたくない。
どうせ私が全部潰すのだろうが、それでも警戒する価値はある。
私では青龍メンバー全員を守れるはず無いのだから。
「はい。ご存知かも知れませんが黒蛇には白蛇に毒蛇という同盟を組む族が2つあります」
ーー「………」
「そして、黒蛇には伊東。白蛇には西東。毒蛇には八幡と異端の組がついています。
同時に黒蛇白蛇毒蛇の3つの族は、戸賀という伊東と同盟関係にある異端の組の跡取り候補の
三兄弟がそれぞれ総長をしているので、異端の族3つと組4つは特に警戒した方が良いと思われます」
あっあと。
「ですから、こちらも同盟関係にあり青龍に続くNo.2の華月も同様です。
同盟であるからには参戦の可能性も視野に入れられるでしょうし、地位が地位です。
見回りの下っ端や幹部も例外なく、単独行動は避けた方が良いでしょう。
寧ろ大人数で固まって行動するのを勧めます」
これくら………あっ!
「加えて、全国2TOPの座を狙うが為に便乗してくる族が居てもおかしくありません」
そして、ほぼ私のせいなんだが………。
「それに、青龍と敵対したばかりに潰されただろう族の元構成員が集まっているらしいので、
それも警戒すべきかと」
……………。
沈黙?
やっぱり長かったか、話。
ついマシンガントークをしてしまったしな。
「………おいおい律。お前の護衛怖過ぎだろ」
怖い?
「どうして?」
「うーん、何から話して良いのか………」
不思議そうに問う律に、歩はうーんと考えている。
「………ソイツ最初の自己紹介終わった後、俺達に殺気向けたんだ」
歩に代わって千景が淡々と言った。
「え?」
「殺気?」
「その様子じゃ、すぐ側に居るのに律と瑠樹は気付かなかったんだろ。
それはコイツが殺気を完璧にコントロールして俺達に限定したからだ。
普通そんな事まず出来ない」
「そうだけど、それを雪香が?」
「うーん、でも僕と颯天の攻撃全部余裕で避けてたし………」
半信半疑…か。
まぁ当然だろうな。
私は喧嘩の出来ない、口が達者で逃げる事避ける事が得意と見せていて、
本性はほんの少し失態で見られただけだからな。
「大体、律達5人に個人として認められてる事がスゴイ」
哲哉が言った。
クールな雰囲気を醸し出しているのは、外見だけでなく声音からもだと思った。
「律と瑠樹はともかく、他の3人がね」
「ねー?月夜と颯天は文武の実力とか元々の人柄だし…」
「…玲は側に居ての居心地らしいし」
あぁ双子だなー。
裕哉、裕翔、裕哉と話す姿が杏と凛に重なる様な重ならない様な………。
「言われて見ればそうだね」
「うん。いつの間にか月夜も颯天も雪香へ警戒解いてたし、玲も懐いてるし」
瑠樹と律が今気付いたという雰囲気を漂わせながら普通に話している。
「それに、見事に僕達を見分けて、5人全員の名前もフルネームで間違いない所」
「その上高いハッキング能力に、僕達みたいな族が気を付けないといけない点を理解してる所」
「加えて、元々所持している情報量もね」
裕翔、裕哉、裕哉と話しながら、2人共先程とは違う小悪魔の様な笑みを浮かべている。
天使みたいな正反対な杏と凛とは大違いだな。
「そう、それそれ。喧嘩さえ出来れば敵には絶対回したくないっていうか、
まぁ今でもう回したくなくなったんだけどさ」
歩がそう言い、律から視線を移して私を見る。
「颯天と瑠樹の連携避けれたら、多分攻撃もすぐマスター出来ると思うんだけどねー」
いや、颯天と瑠樹の連携なんてまだまだだろ。
杏と凛の連携とは比べ物にならないくらい粗末だと思うぞ。
「ねぇねぇ、雪香?だっけ」
そんな事を思いながら居ると、裕翔に声を掛けられた。
「僕達と手合わせしてみない?下で」
「嫌です」
「「えー」」
即断ったのだが、2人は立ち上がって私の前に来て片腕ずつ掴む。
「大丈夫大丈夫、颯天と瑠樹2人の攻撃避けれたら僕達だって似たようなものだから」
「そうそう。それに、一石二鳥なんだよ?僕達の攻撃避けたら多分、青龍に認められるだろうし」
抗う間なくして立ち上がらされ、腕を組まれた。
その時。
ーブォンブォン
っ!
「律様」
「「え?」」
「何?」
左右の裕哉と裕翔が反応したが無視して告げる。
「黒蛇かどうかは定かではありませんが、200程のバイクがここに向かってきてますよ」
ーー「!?」
まだ聞こえてないか。
「疑う暇があるなら、応戦出来るよう動く事をオススメします。あちらは奇襲のつもりで来てますから」
毒蛇、白蛇、毒蛇のどの情報にも、青龍に攻めるなんて情報も申し出も無かった。
つまり奇襲と認識し、こちらは応戦しなければならない。
応戦しなければ殺られるだけだ。
っ!?
「拳銃や金属バット、鉄パイプ等の武器は当たり前でしょう。………死人が出る可能性もありますよ」
ーーゾクッ「っ!?」
クソっ。
200なんて数じゃない。もっとだ、3倍近く居る。
黒蛇、白蛇毒蛇と3つが揃った可能性が高い。
亜夢も居ない。
これは完全に青龍から全国No.1を奪う気だ。
私のただならぬ雰囲気を感じたらしく玲は飛び起き、
察したのか律以外が立ち上がって扉から出て行った。
「………雪香は、ここで待ってて」
は?
律は俯きながら、無理にいつもの声を出そうとしてる様だ。
「お願い」
「無理です」
黒蛇だけならまだしも、数は多いのバックに組が居るのは当たり前。
そもそも異端の蛇同盟が来る時点で、青龍と華月でどうにか出来るものではない。
「じゃあ、命令」
っ!
律が歩き出す。
私の前で止まって、いつもの笑みを私に向ける。
「大丈夫!僕、ちゃんと実力で総長やってるんだから!」
何故だろう、動けない。
その間に律は私の横を通り過ぎ、幹部室から出る。
私は慌てて振り返る。
「雪香はここで、僕達の……ううん。…僕の、月詠律の帰りを待ってて」
そう言い、律は幹部室の扉を閉めた。
ーガチャ
鍵を掛ける音がした。
私はそのまま何故か、不安で動けないで居た。
ハッとした。
随分長く固まっていたらしい。感覚で分かる。
何故呆けていたのか。
何故動けないでいたのか。
分からない。
聞こえてくる悲鳴。
殴る音、蹴る音、その他様々な音。
「何をしてるんだ私は」
急いで扉を開ける。
ーガチャガチャ
鍵だ。
律が出て行った時掛けてたではないか。
っ!
悲鳴が途絶えた。
静かになった。
勝ったか負けたか。
勝敗は分からない。
分からないがとにかく胸騒ぎがする。
蹴破るか。
ーバンッ!!
扉を蹴破り階段前の踊り場の様な場所に立つ。
!?
立って、後悔した。
ハッとしたのが遅かった事に。
律の命令や言葉を無視しなかった事に。
「あ〜れ〜?護衛のくせに何やってたのぉ〜?」
「どうせ口だけだろ。なぁ?」
勝ち誇り下卑な笑みを浮かべる亜夢と、黒蛇総長戸賀大我。
その傍らに純平、大輝と並んでいる。
そして、その足元には。
「雪………香、逃げ……て」
「早…っくっ」
傷だらけで倒れる、律と瑠樹。
歩、裕哉、裕翔、哲哉、千景。
周りには倒れる大勢の下っ端。意識はギリギリであるようだ。
ードクンッ
雪路が殴られた時は、怒りで感情が支配された。
「護衛とか言ってたけど、全部終わる直前に来て役立たずだなぁ?ゲヘヘヘヘっ」
「確かに。何必死で階段守ってるかと思ったら、まさか負け犬を守ってたなんて」
「だってお金での付き合いでしょー?」
向けられる嘲笑、憎悪、嫌悪丸出しの視線。
それは、青龍の下っ端からもだ。
罵られる事は多々ある。
だがいつもと違う罵りの言葉だ。
「いい加減、青龍は負けましたって認めろよな」
ーピクッ
「誰がっ、認める…もんかっ」
律が言う。
身体を動かすのも大変……いや苦痛だろうに。
端から見たらただの威嚇だ。
だがその声は低く圧があり、私に向けるものとは根本的に違っていた。
先程の歩に私の事を訂正した時のように、今はもうザコで片付けられない。
「認めろ。殺されたいのか」
拳銃を出した大我。
私には目もくれず、この場の全員が律を見る。
「じゃあ、死人に口なしって事で良いよなぁ!!!」
ーブチッ
あぁ、律の前ではやりたく無かったな。
抑える事の出来なくなった殺気を開放する。
ーブワッ
ーー「っ!?」
一斉に視線が私に向く。
驚愕、疑惑の視線だ。
私から殺気が放たれている事を理解した者、私から殺気が放たれたのかと疑うもの。
権力を振りかざすのも、通り名をひけらかすのも私は嫌いだった。
だが私の手はウィッグを取り、私は無意識の内に偽っていた雰囲気を元に戻していた。
「雪…香」
「なっ!?嘘だっ!お前はっ、お前はっ」
慌て出す大我。
亜夢は分かってないが、純平も大輝も私が誰なのかを理解し顔を真っ青にさせる。
私は今まで殺気は「%」で殺気をコントロールしていた。
だが、今はそれが出来る状態ではない。
ーー「ヒッ」
私は身体能力を最大限まで活用し、
2階から飛び降り律に拳銃を向けた大我の顔面目掛けて回し蹴りを入れた。
ーボキッ「ガハッ!」
ーー「!?!?!?」
大我はそのまま吹っ飛び、後ろに居た者達を数十人巻き込んで倒れた。
「ヒッ!な、何なのよっ、何なのよぉ!!!」
「逃げるぞ!」
「ここに居たら死ぬ、死んじまう!」
亜夢は腰を抜かして尻もちを付き、純平と大輝は逃げようと背を向けた。
私はそんな3人を回し蹴りで一気に倒れさせる。
気絶せず、かろうじて声が出る程度に。
「黒蛇、白蛇、毒蛇は潰れた。もう青龍に手出しをしない。良いな」
「「「はぃ………」」」
3人共気絶したらしい。
数十人巻き込んで倒れた大我を見ると、3人よりも酷く泡を吹きながら気絶していた。
静かになった空間で、私に視線が向けられる。驚愕一色に染まった視線だ。
そんな中、私はそれを感じつつ倒れた律の前に膝を着く。
ーー「っ!」
この身体能力は私の誇るべきものだ。白雪組の若頭として、誇るべきものだ。
だが私は、今この時この力が嫌になった。
怖がられるだろう。
私は幾つもの組、族を潰してきた。
今回は言われなかったが、「化物」「人間じゃない」なんて当たり前だ。
恐れられるのに慣れていたはずなのに、今この場では嫌でしかない。
怖がられるのが、恐れられるのが、嫌われるのが今まで気にならなかったのは、
相手が知りもしない他人だったからだ。
だが今は違う。
相手は律なんだ。律の族の構成員なんだ。
「雪……香」
絞り出す様な痛々しい律の声。
私はもう目を瞑った作り笑いなんてせず、声音も口調も偽らず、素のままで話すことにした。
「すまなかった。私が最初から出ていれば、こんな被害は出さずに済んだのに」
ーー「っ!」
「雪…香」
顔は殴られ腫れて、身体もボロボロなのがすぐ分かる程なのに、
私にいつもの笑みを向け、律の優しい手が頬に触れた。
「大……丈夫…だよ」
大丈夫じゃないじゃないか。
目を…背けたくなる程ボロボロで、痛々しくて。
頬の律の手を離させる。
「!…雪…香」
そんな悲しそうな、泣きそうな顔しないで。
住む世界が違った。分かっていた。
組と財閥。世界と全国。
「さよなら」
「っ!!」
私はそう言い、立ち上がった。
「雪…香、お願い、待っ…てっ……。行か…ないでっ」
そんな泣きそうな律の声を聞きながら、
私は気絶した戸賀で黒蛇白蛇毒蛇総長3人と亜夢を引き摺って倉庫を出た。
「雪…香っ!」
名を呼ばれているのを無視して。
すぐに携帯を取り出し、組長に連絡する。
『もしもし、どうしたんじゃ?ゆー』
和む優しげな祖父の声が聞こえてきた。
「青龍に黒蛇、白蛇、毒蛇が攻めてき、私がついていながら律様に大怪我をさせてしまいました。てすので、組員を送って頂けないでしょうか」
『っ!?そうか、分かった。この処分は後ほどじゃ』
声は組長のものに変わり、了承してくれたようだ。
「はい。失礼します」
電話を切って、今度はつららに掛ける。
『どしたのー?』
軽いつららの懐かしい声が聞こえてきた。
「悪い。今から青龍の倉庫に、組員の支持役として来てくれ」
『っ!?てことは、何か大事?』
「あぁ、全員重症だ。今すぐ手当をするべきだが全員動けない。
倉庫内には黒蛇白蛇毒蛇と異端の連中も居るが、とにかく…頼む」
『あららー。でもそれじゃあ仕方ないかー。………御意に』
つららの真剣な声が聞こえてすぐ。
『姉さん何してる!黒蛇とか白蛇とか毒蛇とか聞いてないよ!?』
こちらも懐かしい雪希の声が聞こえてきた。
これは………。
「もしかして、桜花が揃ってるのか?」
『当たり前だよ!倉庫で6代目と5代目が話してる途中、
いきなりつららが御意にとか言ってビックリしたんだから!』
「ハハッ、それはスマナイ。だが、今回はつららだけで行動してくれ。
大方スピーカーにでもしてるんだろ?」
『何故ですか!貴方は、つららは、組の事には介入させないのですか!仲間でしょう!』
智哉…。
『ちょっ、智哉落ち着いて!』
『ゆー!何で?僕達はそんなに頼りない?』
杏…。
『ゆーちゃん、僕達だって役に立てるよ!だから、1人で、2人で抱え込まないで?』
凛…。