「…いえ、結構です」



「ダメだよ。風邪引いてからじゃ遅いし、ベットの方が寝れると思うよ」



そう言いつつ、私の腕を掴んでソファーから立たせてベットの上に誘導する律。



「さっ、寝よ」



何故いつも無邪気な笑顔浮かべてるんだろうなと思いながら、背中を向けて横になる。



布団とは違う感触や、ベット特有の柔らかさで私は間もなくして眠った。


あれから1週間が経った。



2日目には下手な尾行をする男が現れ、

つららに頼んでその日から警戒してもらい、



3日、4日と尾行する男は増えていき、今朝なんて10人も居た。



つららが片付けてくれたらしいが、これだけ尾行されて気付かない青龍に呆れている。



私の評価が変わると同時に、私に対する青龍の態度は何故か変わりつつあった。



月夜と颯天は相変わらずだが、何故か玲と瑠樹と律はマシになった。



玲は私を律に近付けたくないのか律と私の間で昼寝をするし、

瑠樹は律の隣でよく話すようになった。



初日は近付くのも嫌がっていたのに、

律の周りに予備危険分子が…つまり私が居るとなれば近付いてきたのだ。



しかも、玲も瑠樹も敵意の欠片も見せなくなった。



月夜と颯天は時々睨みやら効かせてるつもりだろうが、あんまり?

いや全然怖くないし、正直鬱陶しい。



ただ、空気扱いしてるのも変わらない。



雪希と雪路は組の方で生活している。

つらら、6代目達と登校し、私以外の5代目も含めた桜花と過ごしているらしい。



………さてと、本題をどうするか。



青龍に痛い目を見せてやろうとしてたのだが、

青龍は雪路と接触する機会が無い為別に悪に見えない。



言うとすれば、何故愛奈の事をこんなに信じているのかだ。



庇護欲にでも支配されてるんだろうかなんて思いながら青龍と登校し、

教室に円が入って来た。



出席確認を適当に以前と同じ様に終えてすぐ。


「えー唐突ですが、今日は学年合同で競い合いがありまーす」



………何それ。



私の困惑に気付いたのか、意地の悪そうな顔で微笑んで円が言った。



「まぁざっと去年と同じですから、関係ない人は関係ないんですがー」



………何故だろう、関係大アリな気がする。



「このクラスなら白雪君と月詠君ですねー」



マジかよ。



目を瞑った笑顔を維持しながら思う。



競い合いってなんだよ。何で私と律だけなんだよ。



「じゃあまぁ、運動場に移動しますか。他の方は自習か、見学でーす」



そういったものの、結局運動場には1年から3年までがほぼ揃ったのだろう。



多いなと思いながら参加者ゾーンに居ると、参加者に共通点がある事が分かった。



それは、従者をつけてるかどうかだ。



メイド服、執事服、制服と、付き人の格好は好き勝手らしい。



まぁ一目で区別を付ける為か、差別してるだけなのか………。



「雪香は初めてだったよね」



「えぇ。何です、これ」



一応聞いておこう。

律2年だし。



「えっとね、雪香の来るちょっと前に3学年共体育テストしたんだけど今度体育祭があって、

その体育祭で今回の競い合いの結果が影響してくるんだよ」



体育テストとか真面目な事するんだな。

いつもサボってるから知らなかった。



担任は円だし。



「例えば、同等くらいの実力ならライバルだとか、上級生になれば因縁の対決とか?

去年のも影響してて、ややこしかったりあっさりしてたり、そこは理事長の性格が影響しててね」



理事長は知らないが、テキトーに済ませる奴なんだろうな。



それだけは分かった。

少しして、何か体育祭もどきの並び方をいつの間にか成した3学年。



今気付いたが、生徒が数人体操着に着替えていた。



如何にも運動系の生徒や、カッコ付けの生徒、

おそらく断れなかったのだろう生徒、チャラそうな生徒と多種多様だ。



だが気になる点がある。



何処って?



それは、いつの間にか設置された本部らしき所のテントと、

それを挟んで量際にある青龍のテントとソファー、桜花5代目と6代目のテントとソファーだ。



何でソファー?

何で特別扱い?



女子なんて学年問わず黄色い声上げてるぞ。



そんな中円と教師が2人の横の、運動場の中心で見覚えのある奴がマイクを持っていた。



律が隣で「あっ、理事長」と奴を見て言った。



そうか。



「ではこれから、学年同士の親交と私の娯楽を目的とした競い合いを始めます。

長い言葉はもう良いでしょう。皆さん、体育祭に向けて全力で頑張ってくださいね」



「「おおおおー!!!!!」」



突如として湧き上がった歓声に驚きつつ、

桜花初代総長時代から相変わらずの理事長こと、三枝慎之介に苦笑した。



自分の娯楽の為とハッキリと言うのは、多分私の知り合いの中で慎之介こと慎だけだ。



「準備が整ったので始めまーす。今年は去年みたいなのではなく、

端的に物理的な強さを示すものでーす」



端的に物理的な強さ………ね。



「何でこっち見てるのかな?円さんと理事長」



首をコテンとして問い掛けられ、私は「さぁ」と返して。

突然辺りが静まり返った。



何故かは分からないが、視線を円の方に向ける。



「ですので辞退も可能です。逆にエントリーしたいならペア組んで出場して下さいねー」



ペア。



そうか、考えてみれば従者と主人という形でペアだな。ここに居るのは。



私と律。従者と主。

端から見ればそうなるだろう。



「種目は今回たった1つ。名前は喧嘩です」



「ルールは簡単。ペア内で従者と主人を決め、全員でグランド内に入り生き残り制の

喧嘩をしてもらいますー。

あっ、元々付き人と主として登校してるならばそのままの役割で出場してくださいねー」



「基本ルールとして、従者が居る場合主の戦闘は無しです。つまり、従者側は

主を守る盾となるか敵を倒す刃となるか、はたまたその両方かをして下さい。

最後まで立っていたペアが優勝です」



………従者面倒。

圧倒的に役割多くないか?



「あっ、ちなみに今回はちょーっと面倒な相手が紛れ込んだりしてるので気を付けてくださいねー」



言いながら私を見た2人の視線を追うようにこちらを見た生徒達。



わざと私の事を見たんだろうな。



「ではルール説明も終わりましたし出場するなら白線の中へ。あっ、もう一度言いますよ。

従者が居る場合主の戦闘は無しです。元々役割が決まってないからと従者主を決めずに

参加し2人で闘ってはいけませんよ」



慎の笑顔の圧を掛けられた生徒はその圧を感じながらグランド内に入る。



「出場しない方は白線の外で見るか自習ですよー」



そんな円の声を聞きながら律と並び、

グランドの二回りほど小さ目に書かれた白線の中に入る。



………多いな。

さすがに3学年揃っただけはある。



「ちなみに、ペア以外は全員敵とする様に」



律以外全員敵。

そう考えろって事らしい。



ま、ざっと見てグループ数は……55から60前半か。



その中には瑠樹と愛奈。颯天と月夜。智哉とつらら。杏と凛。雪希と雪路がペアで居り、

青龍と桜花との間で睨み合いが発生している。

雪希以外の6代目はソファーで見学らしい。



総長の冴島夜白。金髪茶目のイケメン。無口。

副総長の城之内文人。黒髪黒目の美形。腹黒。

幹部の雪希。可愛い。

須藤大和。黒髪黒目の美少年。ツンツン&キュート。

羽山樹。茶髪黒目のイケメン。チャラ男。



私の中でのイメージはこれだ。

ま、それは良いとして。



「雪香」



さて、どうするか。



「どうしました?」



「大丈夫?辞退しても良いんだよ?」



そうか辞退があると思った瞬間。



「さて、開始まで3秒前ー」



「あっ」



始まった。

カウントダウン。



「2」



「1ー」



「「開始!」」



辞退はさせまいとでも言いたげなスピードでカウントダウンし、

理事と教師で声を合わせて開始の合図をした慎と円。



仕方ない。



最低限の戦闘で………なんて考えた矢先。



「り、律くぅ〜ん!」



いきなり亜夢が走って来た。



大分離れてるのに走ってくるなんてと思いながら居ると、

やはり日頃のストレスのせいかこのまま愛奈を殴りたい気持ちに襲われる。



さてどうしよう。



「ちょっ!亜夢!」



瑠樹が慌てている。

可哀想に、相手が亜夢で。



そんな事を考えながら居ると、喧嘩開始の先程までグランドに居た生徒が半分になっていた。



あっ。

視線の先には、10分の2程度の力を出して相手を気絶させていく智哉と杏の姿。



珍しい。

智哉と杏がこんな所で数を減らす為に闘うなんて。



颯天と月夜も力を見せつけようとしてるのか智哉、杏同様に積極的に

……というか一方的に相手をダウンさせていた。




亜夢は瑠樹にしがみついており、私と律はというと空気同然だ。



『早くも強者だけになってきましたねー』

 

誰も掛かってこないなーと思っているとスピーカーから円の声が聞こえた。

『おそらくやりたい事があるんでしょうね。青龍には』



何だ慎、圧を感じるいい方は辞めてくれ。



『まー、確かに初めは55居たペアも、今は残り6つになりましたしねー』



私と律。智哉とつらら。杏と凛。雪希と雪路。

颯天と月夜。瑠樹と愛奈………か。



ん?

ん??



いや、大丈夫か?6代目雪希だけだぞ。



いやそれでもつらら達が居るか。



………何だか、嫌な予感しかしないな。



「雪香」



「はい」



「僕達…、全然相手にされなかったね」



苦笑しながら言う律に作った笑顔を向けて言う。



「それはきっと、僕ではなく律様に目が行ったのでしょう。

青龍に悪い意味で目を付けられたくなかったとか」



要は青龍に目を付けられたくないという事だが。



「そう?……でもまぁ、残ったのは青龍と雪希君と雪路と、同じクラスの4人だけだしね」



そう。



………で、問題発生だ。



「雪路…ちゃ……」



「え?」



「…貴女、また亜夢に何かしたんですか」



「えっ……。……何も」



あっ。

雪路、もう諦めてる。



目が前と違う。



これはもう仕方ないなって目だ。



もしかしたら仲が戻せるなんて一切考えていないかもしれない。



そんな悟った様な目をして、見られたくないのか視線を落とした雪路。



直ぐ様、雪希やつらら達が雪路を庇う形で前に立つ。



「何ですか、貴方方は」



「それ、関係なくない?」



顔をあからさまに歪めた月夜に、つららが満面の作り笑みで答えた。



あらら、もうすぐつらら切れちゃうなあれ。

つららが目を瞑った作り笑いを浮かべたら、それは怒りの沸点に近づいた時だ。



亜夢が視線も向けていない雪路の名を呼んだだけで雪路が何かしたかを疑えば、

まぁ私も多少なり怒りを覚えたがな。



「関係あるわ。俺等は雪路に用があ………」



「へぇ〜。じゃあこの状態で話せば良いんじゃない〜?」



「そっちだってがっちりお姫様守ってるんだし、こっちだってやらなきゃいけないことあるんだよね〜」



あらら、凛と杏まで。



2人は語尾が長くなるのと、

目を瞑った笑顔で交互に話し出すと沸点が近くなっているという合図だ。



笑顔が黒くなれば尚更に。



つららと並んで立っている智哉なんて目を瞑った作り物の笑顔が最初から黒い。



これは結構やらかしたも同然だぞ?

青龍。



全員が…。

凛や杏、つららや智哉が怒る事なんて滅多にない。



怒ったとしてもじゃれる程度のものだ。



「だ…、大丈夫…かな?月夜達」



ん?



「何かあの人達、スッゴい……何ていうか、怖いっていうか……」



へぇ、律には分かったらしい。



それと引き換え青龍や野次馬の生徒はあの時と同じだ。



雪路を殴った後の、私を見る目と。



ーー「っ!?」



しまった。

つい作り笑いが取れて、演技すらも辞めていた。



隣の律と、つらら達に凝視されて気づいた。



冷たいと言われる目は隠れているし、見えたのはせいぜい口元か。



まぁ大丈夫だろう。



「あっ、しまった」とでも言いたげな視線を向けてくる、 

つらら始めとした桜花に向けて作った笑顔を向けて言う。



「何か揉め事が起きているのなら、喧嘩の最中ですしそれで済ませては?」



「雪香さん……。それもそうですね」



「力の差、見せる機会やしな」

今更思い出したが、玲はソファーに横になってテントの下で眠っている。



いつも何かしら要らぬことを言うのが居ないと青龍も随分マシに思える。



珍しく……と言うか初めて私の話を聞き承諾した月夜と颯天は、

相手が桜花の先代だなんて微塵も思っていないのだろう。



勝ち誇った様な、人を見下す様な表情。



………さすがにこの大衆の前で事を成すのは気が引ける。



青龍が負けたとなればこの地の面目が立たなくだろうし、

近くには桜花所属の奴が多い青龍の総長と副総長で兄弟が理事と教師を務める高校もある。



ここと同様に大学までのエスカレーター式だが。



とにかく、何もこの高校まで桜花のものにしたい訳でも無いだろう。



円と慎を見ると、待ってましたとでも言いたげに目が合った。



『えー青龍幹部が揃ってる為、ここで辞退可能としますがどうしますー?』



おいおい円、その聞き方はわざとか?わざとなのか?



そんな聞き方したら………。



「辞退なんてしませーん。てか、青龍が相手だからどうこう言うなら、こっちは桜花だっての」



ーー「………」



ほらー、つららバラしちゃった。



『ま、とにかく最近成績が落ちてきてるので、テストで90点取らないと

出席日数や授業の免除にならないので全員教室に戻りましょう』



『青龍との闘いはテキトーに終わらせますので』



動こうとしない生徒に2人が殺気を向ける。



圧に勝てずに戻っていく生徒を見ながら居ると、律が袖を引っ張ってきた。



「雪香、あの人達、やっぱり強いの?桜花とか言ってたし、理事長とかも僕達と同じ特別扱いしてるし」