間抜けな声を出して直ぐ。
「女って、え?女の子?雪香が?」
「はい。混浴なら要らぬ誤解が生まれる前に言っとこうと思いまして」
うん、性別言ったし服脱ご。
律の返事を聞かぬまま、待たせても悪いから制服を素早く脱ぐ。
「えちょ!ちょっと待って!」
後ろで騒いでるが、もうウィッグとコンタクトも外したし簡潔に言うと、全裸だ。
「どうしました?」
「どうしましたじゃないでしょ!何で服脱ぐの!」
何でって…。
「お風呂に入りますし、普通では?」
「そうじゃなくて、何で会って1日しか経ってない僕の…っていうか男の前で脱ぐの!」
酷いな。
いくら私の体付きが悪いからって。
「………そんなに嫌がらなくても」
「嫌がってるんじゃなくてね…。僕みたいな男子の前で戸惑いなく脱いでるから、
その、恥ずかしく無いのかなって…」
静かになった。
そんな律に振り返りながら言う。
「そりゃ見世物でも無いですし、見られるにしても意識しなければ見えるくらいでしょ?」
「意識しないでって言う方がおかしいよ……」
ん?
何か声が小さくなってるな。顔赤いし。
ーーー
雪香に自覚が無いものの、律は経験のない男子高校生だ。
男と思って接していたのが女だったのでも驚きなのに、
目の前で恥じらう様子を一切見せずに服を脱ぎ出し、見えるのは女の身体。
透き通る様な色白の肌は柔らかそうで、背中越しでもわかる腰のクビレ。
綺麗な身体のライン。
こちらに振り返ってEはある豊満な胸に、クビレた腰、小さな尻、
モデル負けの体格に、ほんのり香る石鹸の香り。
初めて見る女の身体を、見たい気持ちと罪悪感が混ざりつつもチラチラと見ていたのと、
綺麗な腰までの銀髪が両胸の上にあって見える所が見えないのと、
迷いない金色の大きな瞳が綺麗だなと思っていたのだった。
ーーー
耳まで真っ赤になった律の背を押してお風呂場へと入ると、広がるのは大浴場。
先程タオルを手渡されたから今はタオルを巻いてるが、
異様に律がチラチラとこちらを見てくるのが少し気になるが………。
そんなまま髪や身体を洗う。
シャンプーなんかのバラの香りが新鮮だなと思いながら洗い終え、
先に湯につかっていた律の近くに入る。
限り無く無言の空間。
寝食はともかく、お風呂まで一緒じゃなくて良いだろと思いながら、
明日の事を考える。
青龍からは空気扱いだが、律は何かと話し掛けてきた。
まぁ兄弟も当然だと思ってたからだろうが。
青龍の倉庫への出入りは無駄に等しいと言える。
隣に座ってただけだったしな。
校内では護衛も然程必要ないだろう。
つまりは側に着いてなくとも大丈夫ということ。
肝心の登下校は徒歩なら側で歩くのも良いだろうし、
護衛は律が私の視界にさえ入れば大丈夫そうだが、少なくとも今週中は側で見張ろうか。
亜夢の動き。
青龍から雪路や雪希への被害を与えないかの見張り。
律の護衛。
「雪…香」
「はい」
反射的に反応したが、詰まり詰まりに名を呼ばれて少しびっくりした。
何故詰まり詰まり?
「雪香は…さ、僕の事どう思ってる?」
どう思ってる?
「義兄妹…ですかね」
再婚を考えて母は月詠の家で雪路と雪希と同居してるしな。
「………それだけ?」
それだけ?
それだけって、他にある……な。
首をコテンと傾げて聞いて来る律の目を見て言う。
「青龍の総長とも、この家の御曹司とも認識してますよ」
「えと、それもそうなんだけど……」
ん?他?
あっ、あるな。
「気弱ですね」
「うっ……」
俯きながらそう呟いてのを見て、これを言って欲しかったのかと思って直ぐ。
「………それだけ?」
俯いたままそう言われて、何を言って欲しいのかと思いながらそういえばと思い言う。
「顔が整ってますね」
「!」
律が肩を上げてビクッと反応した。
そうか、これを言って欲しかったのか。
「………他に何か、思わない?」
違うかった。
目を瞑った作り笑いが一瞬崩れ掛けたがすぐに戻して考える。
顔が整ってるに反応したという事は……。
「容姿をお褒めすれば良いのですか?」
「!そうじゃなくて!その………」
顔を上げて私を見たと思えば、言いにくそうにまた俯く。
うーん、このままだと埒があかない。
よし、直球で聞こう。
「律様は何を私に求めているのですか?」
「………」
「言いにくい事でも遠慮せずにどうぞ」
目を開けた作り笑いでそう言うと、律は私の目を見て一気に言った。
「そ、その!性的とか犯す対象とかそういうの!」
………笑顔が引き攣ったぞ。
言った本人は顔を赤くしながらも私を見つめている。
「性的、犯す対象ですか。ハッキリ言うとその線は皆無ですね」
兄妹になる予定だし、性的とか犯すだなんてとんでもない。
………一応私だって、恋愛未経験の処女なんだから。
「はー、そっか〜」
緊張が解れたと言わんばかりにため息の如く言った律。
「ゴメンね、いきなりこんな事」
「いえ」
「上がろっか」と笑顔で言った律に続いて上がり湯を浴び、
脱衣場で脱いだ服の真横に置かれていたタオルを取る。
髪や身体をタオルで拭きながら、タオルの下に置かれていた寝間着を見て固まる。
何故って?
それは、その可愛らしさにだ。
長袖のフリルやレースの使われた白いネグリジェなんてと。
しかも丈だ。
普通足元まであるんじゃないのか?
なのにこれは、太ももの真ん中辺りまでしか無いぞ。
律の用意されたものは白のスウェットだったのに、何故私がこんなっ。
作った笑顔がヒクヒクと引き攣りながら、それでも用意されたものなので袖を通す。
着てみてもやはり短い。
足が出て辛い。出したくないのに。
そんな事を思いながら髪を乾かす律の隣で髪を乾かす。
「雪香、明日ってどうするの?」
明日?
「今日と同じで行きますが」
「そっか。……でも、無理しないでね?」
「はい」
髪も乾き、さて脱衣場から出ようとなった時。
「えっえぇぇ!」
突然叫んだ律に視線を向けると、明らかに私の太ももを見ていた。
「スミマセン。用意されてたので着たんですが、
不快に思ったのなら我慢して頂かないといけませんので」
「いや、そうじゃなくて、丈が短くて驚いただけでね?」
「そうですよね。短いですよね」
短くても膝上だろ。
「え?うん」
そんな感じで脱衣場から移動し、着いたのは律の寝室。
………今日、結局雪希と雪路に会えなかった。
そう思いながら室内にあるソファーで横になる。
「雪香?早くベットに入ろ?」
「…いえ、結構です」
「ダメだよ。風邪引いてからじゃ遅いし、ベットの方が寝れると思うよ」
そう言いつつ、私の腕を掴んでソファーから立たせてベットの上に誘導する律。
「さっ、寝よ」
何故いつも無邪気な笑顔浮かべてるんだろうなと思いながら、背中を向けて横になる。
布団とは違う感触や、ベット特有の柔らかさで私は間もなくして眠った。
あれから1週間が経った。
2日目には下手な尾行をする男が現れ、
つららに頼んでその日から警戒してもらい、
3日、4日と尾行する男は増えていき、今朝なんて10人も居た。
つららが片付けてくれたらしいが、これだけ尾行されて気付かない青龍に呆れている。
私の評価が変わると同時に、私に対する青龍の態度は何故か変わりつつあった。
月夜と颯天は相変わらずだが、何故か玲と瑠樹と律はマシになった。
玲は私を律に近付けたくないのか律と私の間で昼寝をするし、
瑠樹は律の隣でよく話すようになった。
初日は近付くのも嫌がっていたのに、
律の周りに予備危険分子が…つまり私が居るとなれば近付いてきたのだ。
しかも、玲も瑠樹も敵意の欠片も見せなくなった。
月夜と颯天は時々睨みやら効かせてるつもりだろうが、あんまり?
いや全然怖くないし、正直鬱陶しい。
ただ、空気扱いしてるのも変わらない。
雪希と雪路は組の方で生活している。
つらら、6代目達と登校し、私以外の5代目も含めた桜花と過ごしているらしい。
………さてと、本題をどうするか。
青龍に痛い目を見せてやろうとしてたのだが、
青龍は雪路と接触する機会が無い為別に悪に見えない。
言うとすれば、何故愛奈の事をこんなに信じているのかだ。
庇護欲にでも支配されてるんだろうかなんて思いながら青龍と登校し、
教室に円が入って来た。
出席確認を適当に以前と同じ様に終えてすぐ。
「えー唐突ですが、今日は学年合同で競い合いがありまーす」
………何それ。
私の困惑に気付いたのか、意地の悪そうな顔で微笑んで円が言った。
「まぁざっと去年と同じですから、関係ない人は関係ないんですがー」
………何故だろう、関係大アリな気がする。
「このクラスなら白雪君と月詠君ですねー」
マジかよ。
目を瞑った笑顔を維持しながら思う。
競い合いってなんだよ。何で私と律だけなんだよ。
「じゃあまぁ、運動場に移動しますか。他の方は自習か、見学でーす」
そういったものの、結局運動場には1年から3年までがほぼ揃ったのだろう。
多いなと思いながら参加者ゾーンに居ると、参加者に共通点がある事が分かった。
それは、従者をつけてるかどうかだ。
メイド服、執事服、制服と、付き人の格好は好き勝手らしい。
まぁ一目で区別を付ける為か、差別してるだけなのか………。
「雪香は初めてだったよね」
「えぇ。何です、これ」
一応聞いておこう。
律2年だし。
「えっとね、雪香の来るちょっと前に3学年共体育テストしたんだけど今度体育祭があって、
その体育祭で今回の競い合いの結果が影響してくるんだよ」
体育テストとか真面目な事するんだな。
いつもサボってるから知らなかった。
担任は円だし。
「例えば、同等くらいの実力ならライバルだとか、上級生になれば因縁の対決とか?
去年のも影響してて、ややこしかったりあっさりしてたり、そこは理事長の性格が影響しててね」
理事長は知らないが、テキトーに済ませる奴なんだろうな。
それだけは分かった。
少しして、何か体育祭もどきの並び方をいつの間にか成した3学年。
今気付いたが、生徒が数人体操着に着替えていた。
如何にも運動系の生徒や、カッコ付けの生徒、
おそらく断れなかったのだろう生徒、チャラそうな生徒と多種多様だ。
だが気になる点がある。
何処って?
それは、いつの間にか設置された本部らしき所のテントと、
それを挟んで量際にある青龍のテントとソファー、桜花5代目と6代目のテントとソファーだ。
何でソファー?
何で特別扱い?
女子なんて学年問わず黄色い声上げてるぞ。
そんな中円と教師が2人の横の、運動場の中心で見覚えのある奴がマイクを持っていた。
律が隣で「あっ、理事長」と奴を見て言った。
そうか。
「ではこれから、学年同士の親交と私の娯楽を目的とした競い合いを始めます。
長い言葉はもう良いでしょう。皆さん、体育祭に向けて全力で頑張ってくださいね」
「「おおおおー!!!!!」」
突如として湧き上がった歓声に驚きつつ、
桜花初代総長時代から相変わらずの理事長こと、三枝慎之介に苦笑した。
自分の娯楽の為とハッキリと言うのは、多分私の知り合いの中で慎之介こと慎だけだ。
「準備が整ったので始めまーす。今年は去年みたいなのではなく、
端的に物理的な強さを示すものでーす」
端的に物理的な強さ………ね。
「何でこっち見てるのかな?円さんと理事長」
首をコテンとして問い掛けられ、私は「さぁ」と返して。
突然辺りが静まり返った。
何故かは分からないが、視線を円の方に向ける。
「ですので辞退も可能です。逆にエントリーしたいならペア組んで出場して下さいねー」
ペア。
そうか、考えてみれば従者と主人という形でペアだな。ここに居るのは。
私と律。従者と主。
端から見ればそうなるだろう。
「種目は今回たった1つ。名前は喧嘩です」
「ルールは簡単。ペア内で従者と主人を決め、全員でグランド内に入り生き残り制の
喧嘩をしてもらいますー。
あっ、元々付き人と主として登校してるならばそのままの役割で出場してくださいねー」
「基本ルールとして、従者が居る場合主の戦闘は無しです。つまり、従者側は
主を守る盾となるか敵を倒す刃となるか、はたまたその両方かをして下さい。
最後まで立っていたペアが優勝です」
………従者面倒。
圧倒的に役割多くないか?
「あっ、ちなみに今回はちょーっと面倒な相手が紛れ込んだりしてるので気を付けてくださいねー」
言いながら私を見た2人の視線を追うようにこちらを見た生徒達。
わざと私の事を見たんだろうな。
「ではルール説明も終わりましたし出場するなら白線の中へ。あっ、もう一度言いますよ。
従者が居る場合主の戦闘は無しです。元々役割が決まってないからと従者主を決めずに
参加し2人で闘ってはいけませんよ」
慎の笑顔の圧を掛けられた生徒はその圧を感じながらグランド内に入る。
「出場しない方は白線の外で見るか自習ですよー」
そんな円の声を聞きながら律と並び、
グランドの二回りほど小さ目に書かれた白線の中に入る。
………多いな。
さすがに3学年揃っただけはある。
「ちなみに、ペア以外は全員敵とする様に」
律以外全員敵。
そう考えろって事らしい。
ま、ざっと見てグループ数は……55から60前半か。
その中には瑠樹と愛奈。颯天と月夜。智哉とつらら。杏と凛。雪希と雪路がペアで居り、
青龍と桜花との間で睨み合いが発生している。