玲も含めた青龍や私が昼食を済ませた後、

何を言うでもなく青龍はさも当然と倉庫へと向かっていた。



律の護衛の私も勿論同行している。



………思ったが、

青龍相手なら尾行とかでも気付かれない自信があるから同行しなくても良いのでは?



今も空気だし。空気同然どころではなく空気だし。



目の前で何やら私が潰した族が何故いつ潰されたかを話し合っている青龍。



いやね、仮にも家族だし異端だったから一石二鳥で私が潰したんだよ。

……なんて言う訳もなく、無駄に近い会話をしている青龍を少し離れて見ている。



青龍の倉庫前に着き思う。



倉庫内なら大丈夫じゃね?



まぁ、亜夢の動きを見たいが青龍に入るつもり無いし、

本当は裏切ってないが雪路を裏切り者として見てる青龍に私が受け入れられるとも思わない。



だから別れて帰宅時間に迎えに来ようかと思ったのだが、

言う暇与えずといった感じで律に腕を掴まれ強制的に幹部室へと連れ込まれた。



青龍の倉庫は桜花の倉庫に敵わずとも大きく、桜花同様に清潔に保たれていた。

………ただ、1階の奥と幹部室のある2階の何処かからは生臭い悪臭が漂ってるが。



広い幹部室の中、置かれた6つのソファーの内5つが使われていた。



各自が1つずつ使い、瑠樹座るのソファーに愛奈が引っ付いて座り、

何故か私は強引に律の座るソファーに座らされていた。



理由を聞こうと思ったものの、会議の如く月夜が私に潰された族の事を話し、

それを全員……少なくとも愛奈以外が真剣に聞いてる為聞けない状況だ。



「同盟を組んでいる華月や、レディースの方は手出しして無い様なのですし、心当たりすらも無く誰がやったかも不明。どれも異端の族に変わりありませんが、青龍と敵対していた異端のものばかりが数日で全て消されました」


「偶然にしては…、出来過ぎとるな……」



「青龍に何処かが恩返しでもしてるとか?」



月夜の言葉に深刻そうに颯天が。可能性を瑠樹が言う。



「うーん」



恩返しで敵対してる族を消すとは思えないし、考えないと思うけどな。



「きっとそうだよぉ!皆優しいもん!」



亜夢が上機嫌でそう告げ、「確かに」なんて月夜が呟く。



「少なからずその可能性はありますね。ですが、警戒はしておきましょう」



「せやな。今考えても真実なんて分からんしな」



「うん!」



………今思ったが、玲と律の発言回数が極端に少なくないか?



逆に月夜と颯天と亜夢の発言回数多いし。



律を見るが、特に気にしてる様でもなかった。



その後は特に何をするでもなく、

律は私にあれやこれやと話し掛け、月夜はパソコンを弄り、

颯天は雑誌を読み、玲は寝、亜夢はその寝顔を見ていた。



ただ、瑠樹が寂しそうにスマホを眺めていたのが目に焼き付いたのだった。

夕方の5時前頃。



「そろそろ帰るね。また明日」



律が立ち上がりそう言うと、寝ていた玲までもが起きて見送る。



「えぇ、また明日」



「バイバイ」



「……ん、バイバイ」



「気を付けて帰りや〜」



「律君!また明日!」



「うん」



幹部室を出て階段を降り、下っ端の居る1階を通る。



「また明日!」

「律さん!気をつけて!」

「さよなら!また明日」

「律さん!」

「律さん」



下っ端全員が邪気の無い笑顔で律を見送るのを見ながら外に出ると、

そこには大きなリムジンが1台。



リムジンに迷いなく乗り込む律の後に続いてリムジンに乗り込むと、

運転席との仕切りが開いた。 



「雪香様、お初にお目に掛かります。私は月詠家専属の運転手の白石と申します。

以後、お見知りおきを」



自己紹介をした白石さんは微笑んでおり、優しいお爺さんという感じだった。



だが、私が返事をするまでもなく仕切りが閉まり同時にリムジンが発車した。



挨拶は不要って事だろうか。



「白石はいつもあんな感じだから気にしなくて大丈夫だよ」



律にニコッと微笑まれ、何がどうしたらそう微笑めるのかを教えて欲しいと思った。



………そんなまま、一方的に話し掛けられ受け答えしてる内に扉が開き、

律は差も当然と降りる。



「付きました」の一言くらいくれたってと思いつつ、

まぁそれくらいの距離感も悪くないかと片付け律に続く。



降ろされたのは、屋敷の敷地内の玄関前だった。



運転席の窓が開き、

微笑んだというか笑顔を作った白石さんが「失礼します」と言って走り去っていく。



玄関を律が開けてすぐ、どうしてか不明だが義父が立っていた。

「わっ、びっくりした」



「お帰り。律、雪香さん」



私も?



そんな私の疑問を察したらしく、義父は説明する。



「実は今日から雪香さんも家から登校する事になってね」



………。



「さっ、夕食も出来てるし、皆で食べよう」



案内されるままに、母と義父と律と私で夕食を取り終え、

義父が書斎に戻ると笑顔で去ってすぐ。



「ところで思ったんだけど、護衛をするなら四六時中一緒に居るのが良いと思わない?」



「そう……だね」



母にそう言われ、律がこちらを見ながら言う。



「良かった!」



母の喜ぶ姿を見れたなと呑気に思っていると。



「じゃあ、青龍の倉庫以外の寝食お風呂は一緒に居てくれるわよね?」



喜びながらちゃっかり爆弾並みの発言をした母。



「え?んー、うん」



そして勝手に承諾した律。



「か、母さん、ち「じゃあ今からでもお風呂に入って来て頂戴!」えっ」



言葉を遮られ、席を立たされそのまま脱衣場まで背中を押され続けた後、

「ごゆっくり〜」と下心が感じられる笑顔で微笑んで立ち去った母の背中を呆然と見つめている。



「雪香?早く入ろ?」



いつの間にか腰にタオルを巻いた律に腕を掴まれるが、なるべく見ない様にする。



「雪香?」



ここは一気に告げた方が良いな。



うん、何か今までのが無駄になる感があるが仕方ない。



「律、言ってませんでしたが僕は……」



声、戻そうかな。

んー、やっぱ何となく辞めよ。



「僕は?」



「女です」



「………へっ?」


間抜けな声を出して直ぐ。



「女って、え?女の子?雪香が?」



「はい。混浴なら要らぬ誤解が生まれる前に言っとこうと思いまして」



うん、性別言ったし服脱ご。



律の返事を聞かぬまま、待たせても悪いから制服を素早く脱ぐ。



「えちょ!ちょっと待って!」



後ろで騒いでるが、もうウィッグとコンタクトも外したし簡潔に言うと、全裸だ。



「どうしました?」



「どうしましたじゃないでしょ!何で服脱ぐの!」



何でって…。

「お風呂に入りますし、普通では?」



「そうじゃなくて、何で会って1日しか経ってない僕の…っていうか男の前で脱ぐの!」



酷いな。

いくら私の体付きが悪いからって。

「………そんなに嫌がらなくても」



「嫌がってるんじゃなくてね…。僕みたいな男子の前で戸惑いなく脱いでるから、

その、恥ずかしく無いのかなって…」



静かになった。



そんな律に振り返りながら言う。



「そりゃ見世物でも無いですし、見られるにしても意識しなければ見えるくらいでしょ?」



「意識しないでって言う方がおかしいよ……」



ん?

何か声が小さくなってるな。顔赤いし。



ーーー
雪香に自覚が無いものの、律は経験のない男子高校生だ。



男と思って接していたのが女だったのでも驚きなのに、

目の前で恥じらう様子を一切見せずに服を脱ぎ出し、見えるのは女の身体。



透き通る様な色白の肌は柔らかそうで、背中越しでもわかる腰のクビレ。

綺麗な身体のライン。



こちらに振り返ってEはある豊満な胸に、クビレた腰、小さな尻、

モデル負けの体格に、ほんのり香る石鹸の香り。



初めて見る女の身体を、見たい気持ちと罪悪感が混ざりつつもチラチラと見ていたのと、

綺麗な腰までの銀髪が両胸の上にあって見える所が見えないのと、

迷いない金色の大きな瞳が綺麗だなと思っていたのだった。
ーーー


耳まで真っ赤になった律の背を押してお風呂場へと入ると、広がるのは大浴場。



先程タオルを手渡されたから今はタオルを巻いてるが、

異様に律がチラチラとこちらを見てくるのが少し気になるが………。



そんなまま髪や身体を洗う。



シャンプーなんかのバラの香りが新鮮だなと思いながら洗い終え、

先に湯につかっていた律の近くに入る。



限り無く無言の空間。



寝食はともかく、お風呂まで一緒じゃなくて良いだろと思いながら、

明日の事を考える。



青龍からは空気扱いだが、律は何かと話し掛けてきた。

まぁ兄弟も当然だと思ってたからだろうが。



青龍の倉庫への出入りは無駄に等しいと言える。

隣に座ってただけだったしな。



校内では護衛も然程必要ないだろう。

つまりは側に着いてなくとも大丈夫ということ。



肝心の登下校は徒歩なら側で歩くのも良いだろうし、

護衛は律が私の視界にさえ入れば大丈夫そうだが、少なくとも今週中は側で見張ろうか。



亜夢の動き。

青龍から雪路や雪希への被害を与えないかの見張り。

律の護衛。



「雪…香」



「はい」



反射的に反応したが、詰まり詰まりに名を呼ばれて少しびっくりした。



何故詰まり詰まり?



「雪香は…さ、僕の事どう思ってる?」



どう思ってる?

「義兄妹…ですかね」



再婚を考えて母は月詠の家で雪路と雪希と同居してるしな。



「………それだけ?」



それだけ?

それだけって、他にある……な。



首をコテンと傾げて聞いて来る律の目を見て言う。



「青龍の総長とも、この家の御曹司とも認識してますよ」



「えと、それもそうなんだけど……」


ん?他?

あっ、あるな。



「気弱ですね」



「うっ……」



俯きながらそう呟いてのを見て、これを言って欲しかったのかと思って直ぐ。



「………それだけ?」



俯いたままそう言われて、何を言って欲しいのかと思いながらそういえばと思い言う。



「顔が整ってますね」



「!」



律が肩を上げてビクッと反応した。

そうか、これを言って欲しかったのか。



「………他に何か、思わない?」


違うかった。



目を瞑った作り笑いが一瞬崩れ掛けたがすぐに戻して考える。



顔が整ってるに反応したという事は……。

「容姿をお褒めすれば良いのですか?」



「!そうじゃなくて!その………」


顔を上げて私を見たと思えば、言いにくそうにまた俯く。



うーん、このままだと埒があかない。

よし、直球で聞こう。



「律様は何を私に求めているのですか?」



「………」



「言いにくい事でも遠慮せずにどうぞ」



目を開けた作り笑いでそう言うと、律は私の目を見て一気に言った。



「そ、その!性的とか犯す対象とかそういうの!」



………笑顔が引き攣ったぞ。



言った本人は顔を赤くしながらも私を見つめている。



「性的、犯す対象ですか。ハッキリ言うとその線は皆無ですね」



兄妹になる予定だし、性的とか犯すだなんてとんでもない。



………一応私だって、恋愛未経験の処女なんだから。



「はー、そっか〜」



緊張が解れたと言わんばかりにため息の如く言った律。



「ゴメンね、いきなりこんな事」



「いえ」

「上がろっか」と笑顔で言った律に続いて上がり湯を浴び、

脱衣場で脱いだ服の真横に置かれていたタオルを取る。



髪や身体をタオルで拭きながら、タオルの下に置かれていた寝間着を見て固まる。



何故って?



それは、その可愛らしさにだ。



長袖のフリルやレースの使われた白いネグリジェなんてと。

しかも丈だ。



普通足元まであるんじゃないのか?



なのにこれは、太ももの真ん中辺りまでしか無いぞ。



律の用意されたものは白のスウェットだったのに、何故私がこんなっ。



作った笑顔がヒクヒクと引き攣りながら、それでも用意されたものなので袖を通す。



着てみてもやはり短い。



足が出て辛い。出したくないのに。



そんな事を思いながら髪を乾かす律の隣で髪を乾かす。



「雪香、明日ってどうするの?」



明日?



「今日と同じで行きますが」



「そっか。……でも、無理しないでね?」



「はい」



髪も乾き、さて脱衣場から出ようとなった時。



「えっえぇぇ!」



突然叫んだ律に視線を向けると、明らかに私の太ももを見ていた。



「スミマセン。用意されてたので着たんですが、

不快に思ったのなら我慢して頂かないといけませんので」



「いや、そうじゃなくて、丈が短くて驚いただけでね?」



「そうですよね。短いですよね」



短くても膝上だろ。



「え?うん」



そんな感じで脱衣場から移動し、着いたのは律の寝室。



………今日、結局雪希と雪路に会えなかった。



そう思いながら室内にあるソファーで横になる。



「雪香?早くベットに入ろ?」

「…いえ、結構です」



「ダメだよ。風邪引いてからじゃ遅いし、ベットの方が寝れると思うよ」



そう言いつつ、私の腕を掴んでソファーから立たせてベットの上に誘導する律。



「さっ、寝よ」



何故いつも無邪気な笑顔浮かべてるんだろうなと思いながら、背中を向けて横になる。



布団とは違う感触や、ベット特有の柔らかさで私は間もなくして眠った。