「姉ちゃん、怖い事考えてるよね?顔が意地悪そうになってる」
「いいや、私の考えてる事は当然の報いだ。玲の言う自業自得ってのは正にこの事だ」
そう言う雪香の顔は、とても腹黒にも見えたが、同時に美しかった。
その後、呼びに来た祖父に連れられて2人で組に帰ってこの日は寝たのだった。
「起きてー、姉ちゃん起きてー」
ん………?姉ちゃん?
しかもこれは雪希の声?
えっ、幻覚?それとも夢?
「姉ちゃん起きて!学校!」
学校………、あっ、そういえば青龍を見張るんだった。
いや、正確には律の護衛か。
目を開けると、そこには律の顔が吐息が掛かるぐらい近くにあった。
うん、可愛いけど。
「律、近い」
「これだけ起きるのが遅い。最初は部屋の外から呼んでたのに」
おー、全く気付かなかった。
「さっ、そんな事よりもハイ制服!男装なんてしてたから男子の」
そう渡されたのは、雪希の着る制服と比べるとシャツが色違いのもの。
黒のシャツ、パンツ、ネクタイ、靴下に、白のラインが所々に入ったブレザー。
それを一式で渡すと、雪希は私の部屋から出ていった。
その為、寝間着のTシャツを脱いで晒しを巻き、それから制服を着、
昨日と同じウィッグと眼鏡を掛けて、軽く髪を解かして準備完了。
あとはちゃちゃっと朝食まで含めた洗顔等の朝の身支度を終わらせ、
早々に雪希が居るであろう玄関に向かう。
長い廊下を音を発てないようにして走り抜け、玄関が見えて来ると同時に雪希と雪路の姿があった。
………あー、何か朝誰かと居るのって良いなー。
しかも、雪希も雪路も超端正な顔立ちしてるし、髪も綺麗だしスタイルは華奢だし超可愛い!
そんな事を思いながら玄関で靴を履く。
「って、早!」
「おはよう、お姉ちゃん!」
お姉ちゃん?
………フフっ、何かやっぱり楽しいなー。
可愛い妹にお姉ちゃんって、おのついたお姉ちゃんって。
雪希に名前じゃなく姉ちゃんって呼ばれるだけでも幸せなのになー。
なんて思いながら靴を履き、2人を見て言う。
「おはよ」
「うん!」
「おはよ」
雪路と雪希がそんな返事をしたのを見て玄関を出、道を進み、階段を20段程降り、少し進んで門がある。
この門には、白雪家の誰かの指紋を認証しないと入れないようにしてある為、
いくら義父であれ青龍であれ、この門は通れない。
認識を終え門を開けてすぐ、私のテンションはダダ下がり。
門を開けると、20段程の階段が見えるのだが、
何とそこには律以外の青龍が、それも伊東亜夢を含めた幹部が揃ってたのだから。
とにかく作り笑いを作って門を潜ろうとしたのだが、雪路に服を引っ張られて前に進めない。
「どうした?」
「………」
っ泣くのを、我慢してる?
訳が分からない私に、雪希が雪路の背中を擦りながら言った。
「あれ」
目線の先には、おそらく瑠樹。
で、瑠樹の腕に腕を絡めてる亜夢の姿。
………あー、そういうこと。
確かにこれは、ちょっと酷だな。
青龍の姫になるということは、総長の女かそれ以外の幹部の女ということ。
つまり、雪路が裏切り者にされる以前は瑠樹が雪路の男だったと。
………本当に青龍はどれだけ私の怒りに触れてくるんだろうなー。
いい加減私でも限界ってもんが近付いてきてるぞー?
「ゆー!!」
「わっ、ちょっ、早いよー!」
「フフっ、いつも通りじゃないか」
なんて言いながら、青龍には目もくれずに階段を掛け上がってきたのは桜花5代目幹部達。
ちなみに私が桜花5代目総長な訳で、かつての仲間みたいな?
ま、今も仲間だが。
「ゆー!久し振り!」
「久し振り、ゆーちゃん」
「ヤッホー、ゆー」
テンションの高い白海杏と、大人しめでちょっと内気だったりする凜。
2人共幹部で、双子のサラサラの紺の髪に瞳の美少年だ。
同じく幹部の伊澤智哉。
金髪に碧眼と、いつもの口調だけなら見た目王子様。中身は腹黒。
「ゆー!私も一緒なんだから置いてかないでー!」
ーギュウ
うっ、苦しい。
後ろから来たのは、艶の栗色髪にくりっとした黒目の美少女の雫枝つらら。
何故後ろからかというと、つららは何せ組員だ。
どういう経緯か、つららの両親が祖父につららを預け、そのまま私の側に置いたんだとか。
昨日は…、うん。つららは私の後始末をしてた。
後始末。
それは、私がメッタメタにして潰した族の処理。
警察とも一丸になって毎回やってるんだとかで、
時々この後始末をしてるというものを利用される訳で、ある意味私の弱味を握ってる。
「こらこらつらら、雪香が苦しそうだよ」
「っ////……!あっ、うん!ゴメンゆー」
「………」
優しい声音で智哉が言い、それに顔を染めたつらら。
だが、その気を無くすようにして私の方を向いたつらら。
それを少し悲しげな眼差しで見つめる智哉。
気まずいなーなんて思いながらも、私は言った。
「わざわざ来たって事は、状況は把握してるのか?」
「あっ、うん!雪希君がね、結構前から6代目で気にしてたみたいだったから調べたんだー!」
「俺がね」
ハハハッ、何か今智哉からすごい圧みたいなのを感じたんだが、気のせいか?
「そうそう。てなわけなんだけど、ゆーちゃんは6代目とはあんまり関わらないようにしてるから、6代目にはちょっと呼び出しで伝えよっかなーって」
「それに、ゆーちゃん律君の護衛なんでしょ?6代目は雪希君以外ゆーちゃんが5代目総長って事知らないから心配で……。だからそこは僕達がきちんと説明しとくからね!」
全員に、泣くのを我慢していた雪路にまで心配そうに見つめられ、
私は申し訳ないと思うと同時に、本当に良い仲間を持ったと思うのであった。
そんななか、ふと気になって青龍を見ると、居ない。
待ちくたびれた様で出発したようだ。
……わざわざ朝からここに来て、雪路に辛い思いをさせる必要はどこにあったんだろうか。
ーーっ!
「ゆー、怖いよ?」
「ゆーちゃん怖いよ?」
「ゆーちゃんが黒い」
「そりゃまぁ、ゆーはシスコン気味でブラコン気味だからね。青龍の事考えてる時はこんなんじゃないのかな?」
私にあわわあわわと言ったつららと杏。
智哉に言った凜と、それに的確な回答を出した智哉。
確かに、そうかもな。
「青龍に劣るのは、どんなに下らない事でも嫌だな。………先に行く」
皆の返答も聞かずに、階段横の手すりに腰掛けて滑り降り、
そのまま近くの住宅地の屋根に飛び乗り屋根を伝って月詠屋敷まで急ぐ。
その姿を見て、とにもかくにも残された者は思った。
青龍、敵にしちゃいけない相手を敵に回してるよ。と。
月詠屋敷の敷地の玄関前に着地し、インターホンを押す。
すると、慌てた様子ですぐに律が出てきた。
勿論ウィッグの前髪は下ろしてるし、後ろ髪は一応緩く結ってあるが、
眼鏡もしてるし昨日と何ら代わりない。
「えっ雪香さん!?」
思ってた以上のリアクションだったが、とにかく声音を低くして言う。
「おはようございます。いきなりですが、僕の事はさん付けしなくて結構ですよ」
「えっ……、じゃあ、雪…香?」
首をコテンとさせてこちらを見た律。
……本当に敵意の欠片もないな。
「さん付けじゃなければ構いません。では、そろそろ時間でしょうから行きましょうか」
「うっ、うん」
あと今気付いたが、この制服の内ポケットには懐中時計が入っていた。
まるで英国の執事みたいだな。なんて思いながら踵を返すと、遠くに驚きを露にする青龍達が。
フフっ、その顔が見たかった。
何せ待ちくたびれて置いてきたはずの奴が、自分達よりも先に律の隣に居たんだからな。
………あっ、そうだ。
「律様、本日は何が何でも隣に居りますので」
「えっ、今日だけ?」
……ん?
予想した反応と全然違うんだが。
だって、何が何でも隣に居るなんて言われたら普通引くとか、嫌がるとかするかと。
それが何だ、今日だけ?って。
「……僕さ、もう皆を止めれる自信が無いんだ。だから、僕の側で青龍が雪路に手出ししようとしたら止めてくれない?」
その声音はとても悔しそうで、悲しそうで、でも真剣で。
青龍というものに所属してる為に敵意を抱いていた私にでも、
その声音はそう思わせるものだった。
「良いですよ。ただ、青龍所属は出来ませんが」
「えっ!?……何で?」
え?
「幹部にしようと思ってたのに………」
………は?
幹部?私が?
しかも、何でそんなにしょんぼりしてるんだ。
「僕、青龍に所属する気は全くありませんので」
「えっ……」
笑顔で拒否されるのに驚いたんだろうか。
いや、それよりもだ。
話してる間に門前まで来ており、それはそれは敵意を向けられてるんだよ。
「ちょっ、皆ストップストップ!雪香に敵意向けない!」
ーー………。
全員ものすごく不満そうだったが、とにかく敵意は向け無くなったらしい。
律の前でだけかも知れないが。
門を潜るとすぐ、伊東亜夢が律の腕に抱きついた。
つららに抱きつかれて何の違和感もない私と、感覚は同じなんだろうか。
なんて思いながら見てると、どういう訳か律に腕を掴まれた。
………一体何をする気で?
嫌な予感がする。
思ったと同時、律が私の腕を引っ張り、
当然私も伊東亜夢にはこれ以上近付きたくない為体を持ってかれない様に踏ん張ると、
自然に伊東亜夢の腕の中から律は脱出したのだが……。
「律くぅーん、何で亜夢から逃げるのぉー!」
あーキモい。
そりゃね、ここからでも香水の匂いが匂ってくるんだから、
隣になんて行けばもう鼻が鈍ってもおかしくないと思うぞ私は。
しかも、誰が好き好んで仮にも家族を殴る原因になった………って、律は律で青龍だった。
………だが何故私の腕を?
別に姫にしてる時点で匂いには慣れてるはずだが。
未だに腕を離さない律を見ていると、いきなり伊東亜夢……亜夢が私を見て言ってきた。
「雪香さんだったよねぇ?」
とてつもなくぶりっ子で、とてつもなく吐き気を感じさせる声音と仕草で。
「いくら護衛でもぉ、青龍には入ってないんだからぁ、もうちょっと距離とか取ってくれなぁい?ほらぁ、族関係の情報とかもぉ、皆で話せないしぃ」
へぇ……、族関係の情報ね。
「そうです。スミマセンが、そういった敵対する族の話をする際は、部外者である貴方は」
「失礼ですが、僕はいくら律様のご友人で青龍という同じ族に所属してるからと言い、
特別扱いするつもりは全くありませんので」
ーーっ!?
私が声を遮った事に驚いてるんだろう。
「それから敵対する族等居ないのでは?ここ数日で皆潰されてるはずですが」
「っ」
あぁやっぱり。
事実を言われてか黙った月夜。
「ね?族関係の事なんて、強いて言えば青龍で集まる事くらいのはずですが」
「っ集まる事くらいって何やねん」
ん?