私の考えに祖父が同意したのは分かった。



だが、何故か月詠側の男子が遮った。



艶のある黒髪銀メッシュに、キレのある黒目が特徴的な男子。



「僕達は貴殿方が来る前からここに集まり、待ってたのですよ?父や母も忙しいですし、僕達だって暴走族全国トップの青龍です。それなりにやることがあるのはお分かり頂けますよね」



何だその上から目線に殺気。



内心そう思いつつも、作り笑いは崩さずに保つ。



「そうですお義父さん、話もした「スマンが出来ないんじゃよ」えっ………」



祖父に遮られ、驚いている義父。



「そんな話が出来ないなら、僕達こそ無駄足になるんですが」



そして、また言い返してきた艶黒髪………いや、青龍副総長。



族の、しかも全国トップともなれば情報も古いが把握している。



先程から突っ掛かって来るのは宮野月夜。



しかも、黙って居れば調子に乗ったのか殺気まで飛ばしてきている青龍。



「どうしてくれるんですか?この無駄になった時間」



無駄になった………ね。



「月夜君、言い過ぎだよ。無駄になったのなら、僕が謝るから」



あわわあわわと、年下に謝る姿に少し驚いてる。



世界No.1と言われる大手の財閥社長がこんなだったとはと。



身分を鼻に掛けないのは良いのだが、もう少しプライドは持っても良いと思わされたが。

「お、お義父さん、今夜くらいは何か話せませんか?家族として」



「そうよ父さん。雪香、貴女からも何か言って?」



何か言えと言われても………。



母と義父に祈るように見つめられ、どうしようと考える。



「ねぇ~、亜夢やっぱり怖いよぉ」



小声だが、シンとした室内でははっきり聞こえた。



にしても、THEぶりっこって感じの声だな。



それに応えるようにして青髪黒目の幹部、狐里颯天が言った。



「せや。裏切り者と同じ空間に居ってやったんやから、無駄にするんなら謝ってくれるか?」



裏切り者?

「「裏切り者?」」


私と同じ反応の母と義父。



「………」

「雪路は裏切ってない!それに、母さん達の前で言うとか無いわ」



雪路を背に庇う様にして、年上の5人相手に言う雪希。



そんな雪希を睨む青龍。



「………母さん、父さん、席、外してくれる?」



「「えっ」」



金の髪に碧瞳の、月詠律が言った。



「でも………」



「母さん達は、御祖父さん達と話すことあるでしょ?」



「………」

「うん。……でも、揉め事はなるべく避けてね」



黙る母の肩を抱き、立ち上がって扉前に立った義父。



「お義父さん、雪香さん、こっちに」



えっ、私も?



そう思ってると、祖父は立ち上がって言った。



「そうじゃの。ゆーには先に言っておいた方が良いじゃろうしの」


えっ………、状況的に非常に離れがたいんだが。



青龍が殺気を向けてこちらを睨んでるのだ。



雪希は確かに全国青龍とは桁違いの実力を持っている。



何せ世界No.1桜花の幹部、桜風なのだから。



だが、桜花は桜花に入ってることをばらさないようにしている。



何故ならそのせいで媚びを売られたり、狙われたりとリスクやらが発生するからだ。



それに、桜花に入れば実力も徐々に着いていき、下っ端でも青龍幹部達と同等の強さを持ってるだろう。



幹部になれば尚更だ。



強すぎる姿を見られれば、手加減して対応すれば怪しまれる。



だから雪希はおそらく桜花であることを言っていない。



でなければあんな態度で話せないだろう。



上から目線な、しかも弱い殺気を向けて勝ち誇った様な顔をするなど。



「さっ、行くぞゆー。………早く終わらせて、2人の元に戻りたいじゃろ?」



っ!



そう言われるとそうだ。



私は立ち上がり、雪希と雪路の前に立ち2人にだけ聞こえる様にして言う。



声音も表情も正常にして、気配だけを抑えつつ消さないのを保ちながら。



「スマナイ、席を外す。だが、何かあったらすぐ連絡する。良いな」



「「っ!」」



「「うん」」



2人は驚いた表情を一瞬見せたが、すぐに微笑んで言われ、私はとても申し訳なくなった。



我慢してくれてるのだろう。



この状況で、何処から見ても不利なのはこっちだ。

年齢差、人数差。



青龍は全員私と同い年の17。雪希と雪路は16。



たった1年の違いだが、差があるのは事実だ。



それに青龍は計6人。



先程から見てると、何故か総長であるはずの月詠律と幹部の栗山瑠樹が目を泳がせたりと敵意を向けて来ないが、それでも十分なくらいに月夜と幹部の颯天と十川玲が殺気やら睨みやらの敵意を向けてきている。



しかも、姫なんて青龍の目が無いからと本性を出してるのか嘲笑ってる。



まぁこれは良いが、その他で不利な状況なのにだ。



雪希が何度かとてつもなく修羅場な場面があったと、母さん達の前で言うとか無いわと言っていた。



おそらくだが、両親の前では本性を現さず、雪希と雪路の前だけで本性を出してるのだろう。



そんな状況だろうに、2人は。



そう思いながらも私は、早足で祖父と両親と共に廊下に出た。



最後なので扉を閉めたが、とてつもなく不安だ。



2人に何かあったらと。



そんな不安が顔に出てたのか、祖父が廊下なのに話し出した。



「率直に言う。雪希達は隠してた様じゃが、青龍で問題が起こったんじゃ。それは、濡れ衣を着せられただろう雪路の裏切り」



雪路の裏切り。



いやそれよりも、濡れ衣………っ!。



「えっ、雪路が裏切ったって。いいえ、それより濡れ衣?」



「えっ、お義父さん、どういうことか詳しく」



2人はオロオロしながらも、真剣な眼差しで祖父を見つめた。

いや、組長を。



顔付きや纏うオーラが変わった。



祖父は廊下を歩き始め、私達3人も着いていく。



そんな歩きながら、祖父は話し出した。



「ワシが無足だと言ったのは、青龍の現姫の伊東亜夢が居たからじゃ」



っ!



伊東。伊東組。



「伊東亜夢の両親が組長をする、伊東組という異端の組があってな。それは、簡単に言うと犯罪ばかりする組なんじゃ。そして。最近月詠の回りに居るのも、その伊東の者じゃ。組員に張らせたら最終的には伊東組へと帰っていったわ」



詳しく言えば主に誘拐やリンチが多いが、組員達は薬をヤっており、

噂だが人身、臓器売買等や、その密輸なんかにも含有してるとか。



それ以外にも、最近は繁華街なんかでも名が知れており、大分威張ったり権力を振り回してる上、

女子供にも、仕舞いには老人や無力な一般人といった手を上げ、酷い場合は金属バットやらで殴る始末。



しかも、最近はレイプなんかにも含有している。



簡単に言うと、最低ながらも勢力を伸ばしつつある異端の組。



「そんなっ」



「もしかして、月詠家や、律君達を狙って?」



「おそらくは」



驚愕したらしい義父。冷静な質問をする母。



それに、組長は静かに答えた。



「でも、確かに言われてみれば、さっきも泣いてたはずなのに笑ってた………」



「それに、何だか演技してるみたいな気もするわ」



そう言い青ざめる2人。



と、祖父は一定の距離を進んだからか、結構な距離を進んでから来た道を引き返し始めた。

「雪路の濡れ衣についてじゃが、雪希が言うにはある日突然伊東をいじめたと言われ、他の族と内通してると言われて追い出されたらしいんじゃ。……じゃが逆に、その前から雪路は伊東からいじめを受けていたらしいんじゃがの」



「雪路っ」

「雪路ちゃんっ」



哀れんでか、2人は雪路の名を呼ぶ。



同情なんかはあまり好きではないが、哀れみたくもなるだろう。



「言いにくいが、雪路や雪希、勿論雪子は身を寄せてるとも言える身。雪希はそこをあまり気にしてないが、雪路は気にしてるらしいんじゃ。雪希の話によればじゃがな」



確かにそうだ。



母達は再婚してからここに越してきた。



ここは元々月詠家だけのもの。



居心地が悪くても仕方ないだろうし、住まわせてもらってるという考えもあっておかしくない。



「っっ」



義父が悔しいのか、唇を噛み締めるのが見えた。



「そんなこんなで、今日伝えに来たのはじゃ。あの伊東亜夢には気を着けた方が良いということなんじゃ」



伊東組。



そして青龍の現姫の伊東の娘、亜夢。



それを信じた青龍。



回りは敵だらけとも言える。



………雪希達がこんな事になってるのなら、青龍の敵になりうる族なんかより、今勢力を伸ばしつつある伊東を潰しておけば……。



私が最近始めた、あるものに関わる族潰し。



詳しくは、青龍の敵になりうる族。青龍の敵として関わる族を潰す事。



私の持つ青龍の情報が古いのも、そのせいと言えなくもないが、今は伊東だ。

「そこでじゃ」



ん?



先程まで前を向いていたのに、突然私に視線を向けた組長。



「伊東亜夢が青龍に居り、何かしら律君にも影響が出るやも知れん。だから雪香」



命令の時の……でも、何か嫌な予感がする。



「律君を守りなさい」



………マジか。



雪希や雪路に手を出しそうな勢いの族の、青龍の、しかも総長だぞ。



嫌々オーラの様なものが漏れでそうなぐらい嫌だ。断りたい。



「雪希を追い出したのにも、先程の様子を見る限り負い目を感じてる様じゃったし、こちらにも敵意は向けて来なかったじゃろ?」



確かにそうだが………。



「けど、それなら止めるとか……」



「ん~。律君の……、性格がのぅ」



性格?



喉を唸らせ、歩きながら腕を組んで首を傾げる。



つまり、悩んでるような仕草をする組長。……いや、祖父?



……まぁ確かに、何とな~く気弱そうな気もするが。



「優しいんじゃよ。穏和というかのぅ」



「確かに、律は僕に似たのか気弱な部分が主って言うか、色々考え込んじゃうんだ」



自覚はしてるのか。



大分失礼な事を思ったということを重々承知してるが、確かに何かしら影響は受けそうだ。



客観的な立場から考えてみよう。



伊東愛奈の目的は不明だが、雪路は目的に不要か……、それとも邪魔か。



邪魔だと仮定すると、目的は青龍の地位か、ただの恋愛目的か。



それとも月詠の御曹司というところか。



はたまた全てか、全て違うか。



考えれば考える程どんどん浮かんでくる。

仮に伊東愛奈個人として動いていたとしてもだ。



………雪路や雪希を敵と判断してるなら、こっちだって敵認識する他無いしな。



私と違い、高校に通ってる雪希達。



雪路は裏切り者として、おそらく酷い仕打ちを受けてるだろう。



雪希が守ってるだろうが、雪希も同じ扱いを受けてるだろう。



そうなってると仮定してだ。



律を守ると同時に、弱いと見せ掛けて伊東愛奈に近付く。



組長の命令も遂行出来、尚且つ雪希達の平和で楽しい高校生活を邪魔立てする連中も排除できる。



よくよく考えれば一石二鳥ではないか。



そんなこんなしてると、先程のリビングの扉が見えてきた。



と、突然前を歩いていた義父がこちらに向き直ると同時に止まり、手を握ってきた。



「雪香さん」



真剣な眼差しで見つめられる。



「僕の……月詠覚の息子の、月詠律を守って頂きたい。これは、月詠財閥社長として、そして1人の父親としてのお願いです」



えっ、え………。



真剣すぎる、真面目過ぎる申し出に戸惑う。



いや、私は私で結構やる気だったんだが………。



そう演技で言おうとした時。

「ゆ、雪路っっ!?」



「「「「!」」」」



突然、リビングの扉越しに雪希の叫び声とも言えよう大声が聞こえた。



雪路を、心配と驚きが入り交じった声音で呼ぶ声が………。



まさか、雪路に何か………。



サァーっと血の気が引く感覚が私を襲った。



雪路に何かあったら、雪希に何かあったら………。



私が離れたから、もたもたしてたから。



罪悪感が押し寄せる。



雪路が、雪希が怪我でもしていたら。



脳内が不安や罪の意識、恐怖にも近い感覚に苛なわれる中、私の身体は走り出していた。



リビングの扉を開ける。



「っ!?」

ーー!



その光景を見て、私は本当に血の気が引いただろう。



先程のソファーと少し離れた場所に雪路が倒れ、それを支えている雪希の背中姿が見える。



「雪路!雪希!」



準備してたからか、声音は先程の気弱そうな低めのものだった。



急いで雪希達に駆け寄る。



「ゴメンっ、雪路が、僕を庇って」



庇って?



よく分からないが、経緯はどうあれ雪路は殴られたって事だろう。