そう言って笑うこの男を、あたしは完全無視して前を向く。



「え、無視なの!?」



なんだろう。



ものすごく心織と同じタイプな気がする。



めんどくさい。



「...あ、やべっ!」



後からそんな声が聞こえた直後、男はあたしの手首を掴んでいた。



「とりあえず今日だけでもこの公園から出てってくんない?」



はぁ?



意味わかんない。



なんであたしが出ていかなくちゃいけないわけ?



あたしが怪訝な顔をすると、男はまた焦ったように、



「ほんと今日だけでいいから!ね!?」



そう言った。



なにを焦っているのかわからないけれど、あたしがいない方が良さそうなのはすぐに分かった。



あたしはため息を一つこぼしてブランコから立ち上がる。



そして公園の出口に向かった。



出口まであとすこし。



その時だった。



また男に手首を掴まれる。



あたし今、公園から出ていこうとしてたよね!?



意味わかんないんだけど!



「ちょっ────」



「ごめん」



男はあたしの口を手で塞ぐと、そのままあたしを公園の中へと引っ張っていく。



ほんとになんなの!?



男はあたしを植え込みの影に座らせると、口を塞いでいた手を離した。



「ちょっと────」



「静かに!」



あたしが文句を言おうと口を開いた瞬間、またさっきと同じように遮られた。



今度は口を塞がれていないけれど。



「...ごめん。巻き込むつもりはなかったんだけど。ちょっとこれからここで喧嘩するから静かにしてて?」



「は?喧嘩...!?」



あたしの言葉には答えずに、男は植え込みから出ていく。



無数のバイクの音が聞こえた。



まさか、あたしが公園から出た時に捕まらないように隠した?



ちゃんと説明してから離れてよ...。



あたしは全く現状が理解できないまま、植え込みに隠れ、息を潜めた。