「...こんな時間に外にいると危ないよー」
ブランコに座ったまま、あたしは振り返った。
...誰?
暗くて顔が見えない。
ただ、背が高いことはわかった。
「...聞いてるー?」
軽い口調で言ってくるその人に、警戒心が高まる。
「...誰ですか」
いつもより少し低い声になった。
別に意識したわけじゃない。
ただ、警戒心が高まったから自然とそうなってしまった。
「俺ー?俺はねー、橘田慧(きったけい)。」
「...そうですか」
「あれ、この時間に外にいるのに俺のことは知らないんだ?」
は?
何言ってんのこいつ。
「知らないですけど」
警戒心が高まる。
なんで“みんな知ってるのが普通”みたいな言い方するわけ?
自意識過剰なの?
「そっかー。俺はね、白帝(はくてい)総長なんだ」
白帝...?
なにそれ初めて聞いた。
「.....あれ、もしかして白帝も知らない?」
「知らないです...」
橘田慧とかいう男は、まじか...、と呟いた。
なに、そんなにみんな知ってるもの?
そもそも、あたしは元々ここに住んでなかった。
高校入学に合わせて引っ越してきただけだ。
だからこの辺のことは、まだほとんど知らない。
「白帝っていうのはね、この辺で1番強い暴走族なんだ。」
暴走族ってまだあったんだ。
もうないかと思ってた。
暴走族とか昭和の話じゃないんだ。
「反応なしか...。あ、名前なんていうの?」
なんで名前を教えないといけないわけ。
あたしは教えたくない。
こんな今さっきたまたま会った人に、どうして名前を教えないといけないんだ。
「...俺は教えたんだけど、君は教えてくれないの?」
少し悲しそうな声色の彼に、名前を教えてしまおうかと思ってしまう。
でもそんな考えも一瞬だけ。
あたしは必要以上に関わらない。
「...教えてくれなんて言ってません。」
「あ、確かに俺勝手に名前言ったわ」