「ねえ聞いた!?なんか女の人が男に向かって“クソバカ男”とか言ってたらしいよ!」
うん言ったわ。
口に出したのは少ないけど、心の中では連発してた。
「知ってる!“顔は底辺レベル”って言ったんでしょ!?」
それも言ったわ。
だって実際その通りだし。
100人中100人がブスだって言うと思う。
あれは絶対かっこよくない顔だと思う。
「そうそう!それで、きもい男は消え失せろって言って、睨んだって!」
...いやいや、言ってないし睨んでないわ。
どこをどう見たらそうなるの。
あたし“きもい男”なんて一言も言ってないし、睨んだこともないんだけど!
「え、そうなの!?うちそれ聞いてない!」
いや、聞いてないっていうか、そもそもそんな噂が立つほうがおかしいんですけど。
「聞いてないの!?女の人が睨んだら、男が震え上がって逃げたんだって!」
いやだから、全然違うわ。
まず男は震え上がって逃げたんじゃない。
仲間がもう別の場所に言ったのに気づかなくて、慌てて追いかけたんだ。
それをどう見たら、“男が震え上がって逃げた”ことになるの。
これだから噂は信じられない。
そもそも信じるっていうこと自体、あたしはしないけど。
でも噂はどんどん現実とかけ離れていく。
明日くらいには“男をボコボコにした”とかいう噂も流れてそう。
「あ、愛夢ー!!」
うわぁうるさい。
昨日より大声で走ってきた心織。
「き、聞いた!?昨日女子高生っぽい人が不良男を殴ってボコボコにしたんだって!!」
...こんなに早く噂って全く違うものになってくの!?
「ねぇやばくない!?どんだけ強いんだろーね!!しかも仲間は睨みだけで退散させたって聞いたし!」
いや、仲間には触れてない。
まず仲間すら見てないわ。
「あーむー!聞いてる!?」
「...聞いてる。とりあえず黙ってくれる?」
そんな大声で叫ばなくても聞こえるわ。