「目、閉じて」


女子トイレの鏡の前に立って、私は名津美ちゃんの指示通りに淡々と顔を動かす。


「はるちゃん、メイクしたら?うちの学校、ほら偏差値低いしさ、色々ゆるいじゃん?」


たしかに、メイクもパーマも、髪染めるのも、スカートの丈も全部自由。


その辺は、校則なしの学校。



「そっちの方が毎日楽しいっていうかさー。なんていうの?自分磨きっみたいな。


とりあえず、やった方がいいって笑」


「…そっかなぁ、でもやり方とかわかんないし…」



そもそも、あんまり考えたことなかったなぁ。


ひーくんから、特にそういうの言われたこともないし。



っていうか、ひーくんがメイクとか嫌いそうかなって。



なんとなくそう思ってたから、あんまり考えないようにしてたのかも。



「それならあたし教えるし!いい機会だしね笑」


「え、ほんと!」


「もちー。今度、コスメも一緒に買いに行こ。なんかはるちゃん、改造してみたい〜!!」


「改造って…あんま変わらないと思うけど…!」



「変わる変わる!てかもう変わってるし!

はるちゃん目開けてみて!!!」



言われるまま、恐る恐る


だけどちょっとワクワクして



目を開けたら。




「…へ…」



目がいつもよりおっきくみえて、肌もなんだか綺麗にみえて、


なんか


「別人、だぁ」



私じゃないみたいで、名津美ちゃんの言う通り、改造された感じだった。


「でっしょー?!五分しかしてないのにこれだもん!絶対もっと可愛くなるよ!!

最後髪の毛ちょっと巻くから!

時間ギリだから急ぐよー!!」


そう言ってコンパクトサイズのコテをカバンから出して、私の髪をテキパキと巻き始めた。




ひーくんと違って、何も目標とかないから。



いつもやることないし、取り柄もないし。



名津美ちゃんみたいに自分を可愛くしたり、



そう言うこと、やってみようかな。