周りはまた、ザワザワとし始めて




「『天使』って…まんますぎだろ。」





「有り得ねぇ。こんな偶然、あってたまるか。」






などと言っている。






こうなるって分かってたから、あんまり言いたくなかったんだよ。




天使って、珍しいから。




というよりも、もう下ろしてほしい。






私はずっと、藤條さんの肩の上。






しかも、藤條さんの身長は190センチ近くあると思う。








「あの…下りたいです。」







彼の頭にそっと手を乗せて、抗議してみる。






「……あぁ。」






と言って、藤條さんは






「え。」






左腕に私を座らせた。







いや、下に…と思って藤條さんを見るが、







「お前は、俺が連れてこさせた。」







?私は冠城さんに連れてこられたんだけど、







頭に?を浮かべて、考えていると、






「言ったでしょ?

君に指名が入ったから、って。」






と冠城さんが笑う。







え、指名って…藤條さんの、って事?







「だから、お前を下ろすわけにはいかない。」








そう言って、藤條さんは私を抱える腕に力をこめた。








「…でも、、」








「さて、天使(てんし)ちゃんはどれに乗る?」







困っていると冠城さんが聞いてくる。





私は、天使ちゃんじゃないです。





どれ?と冠城さんを見ると、沢山のバイクの方を見てる。







え?バイクにって事?







「仁那、俺のに乗れよ!」






と、玲夜が髪とお揃いのターコイズブルーが基調のバイクを指差す。







「…格好いい。」






くすみの無い、光沢のあるその青に魅せられる。





まぁ、私のアイリスには負けるけど。








あれ?…アイリス?







「あっ!」







「うるさい。」







急に叫んだ私に藤條さんが眉を寄せて言う。







「どうしたの?」






苦笑しながら首を傾げて、聞いてくる冠城さんに






「っとても大事なものがさっきの場所に置きっぱなしで。」






そう説明して、藤條さんの腕からスルリと抜け降りる。







そして、目を見開いて固まるこの場の人達に







「それじゃあ!さようなら。」







そう言って走り出した。







「天使ちゃん!!」






後ろで呼び止める声が聞こえたけど、そんなの今はどうでも良かった。







ただ、取り残されたアイリスが心配だった。








─────────────



「良かった…。」





そう呟いて、車体に咲く紫と白の花に口付けた。






あの場から走って十数分。






幸い人の目につかない場所に置いていたから、誰にも傷つけられることなくその場にあった。







「無我夢中で走ってきたけど…。」






彼らは、相当有名みたいだし、周りの噂を聞いている限り、強いらしい。







勝手に去って、怒られる?







「…でも、もう会わない筈。」







私は、会うつもりは無いし、あっちも逃げた私を探さないだろう。







「じゃ、走るか。」







きっとこの中央道路はあと少しで彼らが通るだろう。







折角だし、その前に走ろう。







そう考えてバイクにキーを差して、メットをつけて、跨がる。








そして、







ブォン!ブォォォォンッ!








彼らの整備によって、もぬけの殻になった中央道路を走り抜けた。






─────────────



5分ほど走ったとき、後ろの方で何十台ものバイクの音がする。







フルフェイスのヘルメットのシールド越しにパッと見てみると、それはやっぱりバイクの大群だった。







前に向き直って、考える。






後ろのバイクの先頭、そこを堂々と走ってたのはついさっき見たターコイズブルーのバイクだった。






その後方に見えた真ん中を走ってたのは、さっき私が乗せられていた黒のボックスカー。







「(絶対さっきの人達だ。)」







抜けられるか?





失敗した。こんなに早く来るとは思わなかった。







やっぱ、今日は止めとくんだった。







そんなことを考えている間にターコイズブルーのバイクが近づいてきて、私を威嚇している。








『そこを退け。俺らの道だ。』






と、きっとそう言ってる。







もう一度、振り返り確認する。







今、玲夜のバイクとの距離は約10メートル位。








「…よし。」








小さく呟いて、行動に移した。








バンドルを右にきり、その勢いのまま何回か車体を道路に近づけ、右足を軸にグルグルと回る。









その勢いのまま彼らが来ている方へと車体を立て直した。









ブォォォォンッ!ブォンッ!







呆気に取られるターコイズブルーの持ち主を通り抜け、そのまま一直線にバイクの群れへ突っ込んだ。








丁度、黒のボックスカーを抜いたとき、その後ろを付いていたバイク達が私の進路の邪魔をする。









ま、邪魔してるのは私か。








ブォンッ!ブォォンッ!







そんなことを考えながら、前に立ちはだかるバイクをハンドルをきって、クネクネと交わしていく。








埒が空かないと思ったのか三台ほどのバイクが壁を作るように並んで向かって来る。









…甘い。









私は、そのまま横転しないようにスリップして、並んでいるバイクの前輪を後輪で払った。









突然の事に対処できない三台は転けて、









その隙に私は、前輪を持ち上げて勢いをつけて、倒れているバイクの上を飛んだ。








ダンッ!







着地して、前にもうバイクが無いことを確認し、








私が沢山のバイクを抜いた先、黒いボックスカーの中、そこに居るだろうこの大群のトップを見て、








『悪気はないです。』







そんな意を込めて、小さく会釈し、帰路へ走り出した。









─────────翌日



「いらっしゃいませ、こんばんはー。」






私はバイトに来ていた。






急遽、これなくなった人の代理として呼ばれたのだ。







今日は水曜日。




実は水曜日は定休にしていたので、2年も経つのに入るのは今日が初めてだ。






「仁那ちゃん、ごめんね?

急に入ってもらって…明日は休んでいいからね。」







スタッフルームから出てきた店長が私に言う。







「いえ、大丈夫です。明日も来ます。

元々シフト入ってたんで。」







そう言って、品出しをする。






「そっか…ありがとう。」






店長はポンと私の頭に手をおいて、スタッフルームへ消えてった。






「…………。」






一瞬、パパの手を思い出した。





大きくて、優しくて、ハンドルの握りすぎで、グローブしてるのに豆が沢山潰れてる手。






でも…凄く心地よい手。







もう、私に触れることは無いけど。






──────────────

ピッ、ピッ





「532円になります。……8円のお返しです。ありがとうございました。」








深夜1時頃、私はレジに立っていた。







シフトは後、1時間。







着々と仕事をしていく。






次のお客さんが来て、大量に弁当やら何やらが入った籠が目の前に置かれる。








これだったら、スーパーで買った方が良いんじゃ…。








と思いながら、最初の1つをとる。








「お弁当は温めま、、す、か?」







「あー、大丈夫で、、す。」









目を合わせて、思考停止。