「ちょうど昨日まで、夏期講習だったんです。」

友利みちかが言った。

「どうでしたか?光チャイルドは。」

百瀬の質問に、友利みちかは困ったような顔で微笑んで見せた。

「先生方が、大変熱心だったのですが…。その分とても厳しくて3日間連れて行くのが大変でした。自分なりに頑張ったようなのですが…。乃亜はずっと百瀬先生に会いたいと、言っていました。」

友利みちかの言葉が嬉しくて、百瀬は思わず照れ笑いをした。

「厳しいという噂はよく聞きます。でもその中で頑張った分、自信がつく子も多いみたいですよ。乃亜ちゃん、よく頑張ったね。」

百瀬は、乃亜に優しい視線を向けると友利みちかがポツリと言った。

「だといいのですが…。周りの生徒さん達が、とても優秀で。毎日とても心細くて、私も娘と同じで、ずっと百瀬先生にお会いしたかったです。」

友利みちかの言葉に、思わず百瀬は固まったまま彼女の顔を見た。
困ったような表情で、友利みちかは百瀬を見つめている。
百瀬は言葉を失ったまま、友利みちかの目をじっと見つめ返した。

「あの…、行動観察だけは本当によくできたようで先生がとても褒めてくださったんです。本当に百瀬先生のおかげだと思います。」

照れたようにそう言うと、友利みちかは乃亜の方へと視線を移してしまった。

「そんな…。乃亜ちゃんの実力ですよ。」

たった今起きた一瞬の出来事は一体何だったのだろう。
あっという間にうやむやに埋もれてしまった言葉の意味を探ることもできずに、百瀬は頭がボーッとするばかりだった。
その時教室の入り口がザワザワとして、受講生達が次々と教室へ入ってきてしまった。

友利みちかは綺麗に会釈をすると、乃亜と共に教室の後ろの席へと歩いて行った。