「あら?みちかじゃない?」

背中の方から知っている声がして驚き、みちかが振り向くと、そこには同級生のひばりが立っていた。
隣には息子の翠くんがバイオリンを背中に背負っている。

「ひばり、久しぶり。」

みちかはびっくりしていた。
ここのところ気がつけばひばりの事を考えていて、新学期が落ち着いたら連絡をしようと思っていたのだ。

「やだ、偶然!」

品の良い笑顔で、ひばりがこちらへ歩み寄る。
ふんわりとしたボブヘアに、落ち着いた濃紺のニットとラベンダーピンクのフレアパンツ。
雑誌を切り抜いたかのようなお洒落をさらっと着こなしたひばりにみちかは親友ながらうっとりと見とれた。

「乃亜ちゃん、こんにちは。大きくなったのね。」

「こんにちは。」

翠くんもこちらへ歩いてきて、ひばりに促される事なくすっと頭を下げる。
乃亜は、一歩前に出てそんな翠くんをじっと見た。

「こんにちは。」

乃亜の棒読みの挨拶に、ひばりが優しく笑って言った。

「乃亜ちゃんもバイオリンやってるの?」

「うぅん、今日は体験に来たの。翠くん、ここに通ってたんだ。ほんと偶然、びっくりしちゃった。」

「ほんとよね。2年ぶり?かな。」

高校時代の同級生だったひばりとは、今でも時々連絡を取り合う仲だった。
家も、車で30分くらいで行ける所に住んでいるから会おうと思えば会えるのだけれど、なかなか子育てをしてると思うようにはいかない。

「翠くんは、3年生になったの?」

「うん、そうよ。やだー、みちかどうしてるかなって気になってた。」

「私もよ。ちょうど会いたかったの。」

みちかの言葉に、ひばりが嬉しそうに笑っている。
翠くんのレッスンも控えていたので、近々ランチに行く約束をして、みちかはひばりと別れた。

スタッフには「入会は、主人と相談をしてからお返事させて頂きます。」と丁寧にお礼を告げて、バイオリン店を後にした。