「なんだか私、接待受けちゃってますね。」

友利の顔をわざとらしく覗き込み可那は悪戯っぽく言って笑う。

「南にはお世話になってるし。今日もだけど、南いつも頑張ってるから。たまにはご褒美あげないと。」

「ご褒美って…。」

ふふふ、と可那は笑った。
友利のコメントが妙に可愛らしく思えた。

「友利さんてこんな風に家族サービスもするんですか?」

残り僅かなビールグラスを手に取りながら可那が聞く。

「しないかなぁ、ほとんど…。ここのところ休みもほぼ会社に居るし。平日も、俺が帰る頃には寝ちゃってるから。朝くらいかな、まともに会えるのは。」

お嬢さんの事だろうか、奥さんの事だろうか、と可那は思った。
友利が主語を使わないから、余計に想像を掻き立てられた。

「え、そしたら寝顔を見るくらいですか?」

「いや。」

語尾を上げ、そう言うと友利は一口ビールを飲んだ。

「別々に寝てるから寝顔も見てないな。」

「え…?」

可那は友利の顔を見た。

「友利さん、奥さんと別々に寝てるんですか?」

「うん、今は一人で寝てる。」

「えー…、意外。」

思わず可那の口から出た言葉に「なんで。」と友利が苦笑いした。

だって、奥さんとはものすごく仲がいいと思っていたんだもの。
ものすごく可愛いと評判の奥さんと、友利がさりげなく寄り添って歩くイメージ。
いつも頭の中で勝手に想像していた光景が音もなく崩れていくのを可那は感じた。

「いえ。なんだかすごく仲良しなイメージがあって。そうなんだぁ…、友利さんもお忙しいし、奥さんも気を使われているんですね。」

可那の言葉が聞こえているのかいないのか、友利は黙って肉を焼いている。
可那は取り分けたサラダを、友利の前にそっと置いた。

「南は?結婚とかは、どう?」

「え、ないです。全然ない!」

ひらひらと手を振り可那は否定した。

「山下は?山下とは続いてるの?」

友利が上品にタン塩を小さく丸め、口の中に入れる。
友利の口から突然出てきた山下の名前に可那はびっくりした。

「山下くんですか?友利さんよく覚えてましたね。」

「まだ付き合ってるの?」

友利に見つめられながら、可那は首を勢いよく横に振った。

「山下くんが異動決まった時に別れましたよ。」

「え、そんな前に別れてたの?」

友利が驚く様子に、可那はほんの少しうんざりしながら「もう別れて1年以上経ってます。」と、言った。