ここでまず眉から描いていく常識を無視して可那はあえて目元にハイライターを入れる事にしている。
メランコリックグロウバームを、目尻寄りの白目の下あたりに指先で少なめにのせる。
そのほんのりとピンクがかったツヤ感は、女性らしさとハリ感を一気にもたらすほどの威力を持つ。

年齢を感じさせないワンランク上の完璧なベースメイク。
鏡に映ったモデルに宿る血色感と上品なツヤ感を確認すると、可那はメロウリュクスアイブロウパウダーBR2を手に取った。

モデルの丸顔な顔立ちを生かすよう、眉山を作らず、髪色に合った柔らかいブラウンで優しげな眉を描いていく。
仕上げにメロウリュクスアイブロウマスカラ03で立体感を出せば眉の完成だ。

目元はメロウタイムレスアイベースでアイホール全体のくすみを飛ばしてから、メランコリックアイシャドーパレット02でボルドーとブラウンの柔らかなグラデーションになるようまぶたを色づける。
下まぶた全体には細チップでメランコリックアイシャドーRDをのせ、わざと赤みを入れれば、まるで泣いた後のような色気のある目元の完成だ。
最後にメランコリックアイライナーBRでまつげの隙間を埋めるように細くアイラインを入れ、ビューラーでまつ毛をカールした後、メロウビューティーロングマスカラBRをまつ毛を1本1本に丁寧に塗り、濡れたような長いまつ毛に仕上げる。

可那はここで1歩、モデルから離れて全体を確認した。
左右のチークの位置、眉のバランス、アイメイクの濃さ、どれも大丈夫そうだ。
腕時計を見ると、残り時間はあと5分だった。

最後のリップメイクに入るため、可那は大好きなルージュに手を伸ばした。
大人のカシスレッド、と呼ばれているメロウのルージュの中でも大人気のメランコリックルージュ16。
その柔らかくクリーミーなルージュをスパチュラで削り取り、リップブラシに丁寧に含ませていく。

どうか、入賞できますように…。

心の中で何度も繰り返しながら、小指に挟んだパフをモデルのフェースラインにのせ、そこを軸に唇にリップラインを描いていく。
女性を一番魅力的に見せるパーツは唇だ、と可那は思っている。
その人の魅力を引き出すのは、何よりもルージュの色と質感だと思う。
息を止め、一気に描いたリップラインの中を丁寧に塗り込んでいく。

ルージュをつけると、モデルの表情が一気に生き生きと見え、可那は満足した。
そして息つく間もなくモデルの肩にかけられたケープと、髪を止めているピンを外した。
髪を整え、ついに完成だ。

その時、会場にタイマーの音が鳴り響いた。

「終了時間になりました。ケープとピンを外し、メイク道具とトレーを返却して、席へお戻りください。お疲れ様でした。」

アナウンスと同時に、ステージのあちこちにため息が漏れた。

終わった…。

可那は、モデルの女性にお礼を告げると、メイク道具を返却してステージを後にした。