「友利部長は、南ちゃん推しだもんね。」

次々と運ばれてくる料理を、可那たちが取りやすいようにバランスよく並べかえながら夏子が言った。

「それもそうだけど、友利部長は南に頼りすぎ!」

涼が皆んなに小皿を手渡す。

「知ってた?ともりんてさ、貝聖大卒なんだって。初等部から貝聖だとか言ってたよ。相当なボンボンだよね。あのおっとりした感じも、納得しちゃった。」

「え、そうなんですか?うわ、おぼっちゃまだわぁ。」

夏子と涼の会話に軽い相槌を打ちながら、可那は小皿にじゃんじゃん料理を載せていく。
青々としたベビーリーフを箸で掴み、口へと運ぶ。
この店自慢の自家製シーザードレッシングの味が舌から快楽となり脳へと伝わってくる。
それは耳から入る友利部長の話題と混ざり合い、酔った頭に心地よく溶け込んでくるようだった。

「奥さん、めちゃくちゃ可愛いらしいよ。この間の新店オープンの時に来たらしくて仲村くんが会ったんだって。」

「あ、聞きました!女優の宮石まゆに似てるって言ってた!」

夏子と涼の話を聞きながら、何日か前に誰か同じ事を言ってたなぁと、可那は手と口を動かしながらぼんやりと思い出す。
2人の話題は徐々に、社内不倫カップルの話題へとそれていった。
そろそろビールのお代わりをしようかなぁ、と可那が思ったその時、急にテーブルの傍らに置いてあったスマートフォンが鳴り出した。

思わず反射的に「うわ。」と、可那は口にした。

「どうしたの?」

「まさかまた、ともりん?」

夏子と涼が一斉に可那に注目する。

「はい、噂をすれば…。」

可那は小さく咳払いしてスマートフォンを耳に押し当てた。

「もしもし、お疲れ様です。」

「南?飲んでるところごめん。ちょっとだけいい?」

すまなそうな友利の声が小さく聞こえた。

「大丈夫です。どうしましたか?」

「あのさ、前回の春の新色の什器ってまだ残ってたよね?今、新店から3面展開したいって連絡もらって。あと1個欲しいらしいんだ。倉庫見たんだけど見当たらなくて。どの辺にあるか分かるかな?」

「あー…。」

什器、什器…。
可那は記憶を辿る。
先週、営業の細川さんが倉庫整理をしたからと言って、その時に確かに什器の保管場所も確認させてもらったのだ。
その場所は、電話で説明できないこともないけれどやや複雑だった。
可那は少しだけ迷ってから言った。

「保管場所、私知ってます。ちょっと複雑なんで、私、今から行きます。」

「え、でもまだ飲んでるでしょ?」

戸惑う友利部長の声をかき消すように「ちょっと待っててください。」と言って可那は電話を切った。

「やだ、また、ともりんの呼び出し?」

夏子が向かいの席で眉間に皺をよせている。

「ちょっと分からないことがあるみたいなんで、行ってきます。夏子さん、ごめんなさい。涼、ごめんね、お会計、あとで教えてくれる?」

「うん。分かったぁ…。」

立ち上がる可那を涼が残念そうに見上げた。