ひばりの息子の翠くんは、小学校受験をして敬栄学園初等部に合格した。
敬栄の初等部は、県内はもちろん県外から受験する子も多くて倍率が高いのはみちかも知っている。

「敬栄難しいのにすごいなぁ、ひばりも、翠くんも。私、乗り越えられる自信ないな。」

みちかの呟きにひばりが「あら。」と、目を輝かせた。

「乃亜ちゃんも敬栄学園どう?」

「うん、それも考えたんだけどね。」

みちかは自分の顔が赤くなるのを感じた。

「実は聖ルツ女学園を、受けたいと思っているの。」

友達に志望校を話すなんて、初めてで、こんなに恥ずかしい気持ちになるのか、とみちかはドキドキしていた。

「いいじゃない!乃亜ちゃん、ルツ女合ってるんじゃない?」

ひばりが屈託のない笑顔でそう言ったので、みちかはほんの少しホッとした。

それでも、聖ルツ女学園小学校の倍率が敬栄初等部よりも更に高い事、試験範囲が多岐にわたり対策が難しい事を思うと、未だ乃亜の志望校をルツ女と考え、それを口に出す事自体が、みちかにとって現実味のない事だった。

小学校受験を経験した、ましてやルツ女OGのひばりにとっても、それは暗黙の了解に違いなかった。

「ルツ女が難しいのは重々分かっているの。こうやって口に出すのもおこがましいと思う。でも色々な学校を見に行ってみて、一番乃亜に合っているなぁ、って感じたのがルツ女でね。」

うんうん、とひばりが真剣な目で頷いた。

「お教室は?どこ行ってる?」

「それがね…。」

ひばりの質問にみちかは口ごもる。
受験塾に関してはここのところずっと迷い、悩んでいる所だった。

「実は、お教室には行っていないの。年中の時、体験には何ヶ所か行ってみたんだけどどこもしっくりとこなくて。」

しっくりとこない、というのとは実際にはちょっと違った。
体験に行ったどこの塾の講師にも、みちかは何か違和感のようなものを感じてしまったのだ。
子育てに正解はない、という言葉を信じて自分の哲学の中で乃亜を手塩にかけ育ててきたという自負のあるみちかにとって、右向け右の塾の教育方針に疑問を感じた。

ただ受験はそうゆうものだという事も、徐々に分かってきたところだった。
ルツ女ほどの難関となれば尚更、身につけておくべき事も多く家庭だけでそれらを網羅するのには無理がある、とも感じ始めていた所だった。