「違う違う。久しぶりにあなたに会えて、嬉しいなぁ、と思って。」

みちかが素直な気持ちを伝えると、ひばりも嬉しそうに笑った。

「あら、どうもありがとう。いや、なかなか近いとはいえ会えなかったしねぇ。良かったわよ、あの日バイオリン教室に来てくれて。通うことにしたの?」

「うん、それがまだ始めるには早いって主人に言われて。私もそう思ったから今回は見送ることにしたの。」

「そっかぁ。そうね、楽器は始めたら毎日練習しなくちゃいけないしね。うちも結局始めたのは小学校決まってからだったもの。」

「そうだよね。私も小学校入ってからでいいかなぁ、と思って。」

「そうよ、そうよ。」

ひばりにそう言ってもらえると安心するなぁ、とみちかは密かに思った。
昔からいつもそうだった。
同い年なのに、ひばりはまるで姉のようで、相談すればすぐにスッと答えをくれた。
決して厚かましくなく、いつだって率直なのだ。
聡明な彼女に高校時代、幾度となく助けられた。

ひばりと出会ったのは、高校入学直後、ブラスバンド部の見学に行った日の事だった。
たまたま同じフルートを希望していた者同士、その日から自然と話すようになり、入部後はぐんと仲良くなった。
同じパートで、厳しい練習を一緒に耐える仲間という連帯感ももちろん要因だっただろうけど、その頃からひばりが纏っていた上品な存在感にみちかは恋に近い感覚を覚えていた。

みちかの入学したその敬栄学園高等部は、2つの付属校の設置があった。
1つは小学校から高校までが女子一貫校の聖ルツ女学園、もう1つは同じく小学校から高校までが共学の一貫校、敬栄学園だ。

みちかは高校受験をして敬栄学園高等部に入学をしたが、多くの生徒はその敬栄学園中等部や、聖ルツ女学園中学から内部進学で上がってくる。
両校ともカトリックの系列校とはいえ女子校と共学という違いもあって、校風はかなり異なっていた。

聖ルツ女学園は純真、愛徳など主に精神面においての高みを目指す女子教育を校訓として掲げている。
おとなしく真面目な生徒が集まる、いわゆるお嬢様学校だ。
一方、敬栄学園は文武両道の教育方針を元に、正に元気いっぱいの生徒が集まるような校風だった。

そんな敬栄学園高等部だったので、毛色の違う聖ルツ女学園からの内部進学は稀なパターンだった。

それでもひばりが敬栄学園へ来たのは、全国大会で優勝するほどの実力を持つブラスバンド部への入部が目当てだったという。
そしてみちかが、公立中学から敬栄学園を受験したのも同じくこのブラスバンド部が決め手だった。

まるで違う道を歩んで来た2人だったけれど、中学校時代から吹奏楽部でフルートを吹いていた共通点と敬栄学園出身では無いというアウェー感が、2人をグッと仲良くさせた。

そんな出会いだった。

みちかにとって、幼い頃から私学の女子校育ちのひばりの独特の感性や美しい所作や佇まいはとても新鮮で影響力があった。