“矢吹 諒介”という名前は中学ではすごく有名だった。
まぁ名の知れた不良って感じかな。
いろんな噂を耳にしたことはあったもののあんまり学校に来ない諒介さんを俺は知らなかった。
だから学校でこの答案用紙のことを思い出して名前を見たとき、隣にいたリュウジは
『ヤベー…拓海目付けられたんじゃね?』
なんて言ってたけど、俺は全然恐怖を感じなかった。
「おまえさ、俺の名前知ってもビビんないとかレアだな」
「え?全然怖くないじゃん。寧ろいい人でしょ?」
「まぁな。俺って心の優しい少年だから」
「ハハ、やっぱりね。そうだ、これ返すよ。あれから諒介さんのクラス何度も行ったけどいなかったから渡すの遅くなっちゃった」
鞄から取り出した答案用紙は次会ったときに返そうと思って常に持ち歩いていたものだった。
差し出したそれを見て、諒介さんは笑う。
「なんだよ。涙拭かなかったのか?」
「どうやってこれで涙拭くの?」
「…」
「…」
「アッハハハ…ヤバイ。これで涙拭くのは無理だわ」
諒介さんのこのテンションはよく分からないけど、嫌いではないと思った。