その頃、朱里とは普通に挨拶を交わしたり通学時間が重なれば一緒に学校に行くこともあった。
少し距離を取っていたからか挨拶をするだけで想いが加速する程、朱里への想いは消えるどころか増していた。
「たっくん、今日うちの親とたっくんの親一緒に夜出掛けるみたいだよ。ご飯一緒に食べる?」
「あー…ごめん。今日は彼女と約束があるから」
「そっかそっか。彼女と仲良しなんだね」
笑いながらそんなことを言う朱里は、間違いなく俺を幼馴染みとしか思っていない。
それまで誰より近くに感じていた朱里がこの頃は誰よりも遠くに感じていた。
それでも……どんなに遠くに感じてたって朱里を誰にもとられたくなかった。
「え?朱里に好きな人?いないいない。てか、あの子そういうの疎いじゃん。恋愛なんてまだよく分かってない感じだよ」
「そっか。良かった…あのさユメちゃん、朱里が誰かに告白されたりしたらすぐ俺に教えてくれる?」
「それは別にいいけど…拓海くん最近どうしたの?色んな女の子と付き合ったりするなんてらしくないじゃん」
「ハハ、らしくないよね。自分でもよく分かんないや」
「どした?しっかりしろ~」
「うん、頑張るよ。だからよろしくね」
この頃の俺にできることは、これが精一杯だった。