「引き止めちゃったけど…もしかしてどこかに行こうとしてた?」

「いえ。僕、中庭で読書するのが好きなんです。今の時期、気持ち良いですよね」

「読書…」



マサトくんの手元に視線を落としてみると、たしかにブックカバーの付いた本を数冊持っていた。

マサトくん漫画が好きってたっくん話してたけど…




「漫画…じゃないよね。小説?」

「漫画も好きですよ。でもこれは小説です。純文学ですけど…読みますか?」

「うん、読んでみる」




なんとか共通の話題を作ろうと受け取った小説のページを捲ってみる。

だけど、普段活字を全く読まない私は頭がクラクラしちゃって内容なんて全く頭に入ってこない。

やっぱり頭のいい人はこういう本を読んでるんだ。

む、難しい…ダメだ…

満腹でポカポカ陽気の中、こんな本読んじゃったら…



「おもしろいですか?」

「…」

「佐伯先輩?」

「スー…、」

「寝てる…?」

「んー…これ以上は…おむすび食べれない……」

「優しくて…可愛い人だな」

「スー…」

「どうしよう…絶対好きになっちゃダメな人なのに…」



ポツリ、小さく紡がれた言葉は…

誰にも聞こえることなく、春風と共に空に舞った。