「約束って...」

私は秘密の洞窟へ来ていた。

ここなら誰にも見つからない。

なぜならここは昆布の森を抜けたところにあるからだ。

人魚たちは昆布の森に入ったら戻ってくることができない、という迷信を信じて近寄ろうとしない。

それにこの洞窟の入り口は海藻で隠されていてわからないからだ。

私は洞窟の中央にある大きな岩に寝転がり上を見上げていた。

すると

「マリナどうしたの?」

といきなり目の前にイルカの顔が現れた。

「うわっ!?」

私は驚きのあまり岩から転げ落ちた。

「いったーい!もう、驚かせないでよ!」

「ごめん、ごめん」

「もう!」

彼はケルピー。

私たちは小さな頃から一緒に育った親友である。

私以外でこの場所を知っているのは彼だけだ。

「今日も夢のこと考えてたの?」

と彼は心配そうに言った。

「まぁね」

私はそう言ってゆっくりと起き上がった。

「お詫びに...はい、これ」

とケルピーは私に一冊の本を差し出した。

「新しい本!ありがとう!」

この洞窟には人間の作り出したものがたくさん置いてある。

これらのコレクションは私とケルピーで沈没船などから集めてきたものだ。

さっそくケルピーから受け取った本を開いてみる。

そこには絵が描いてあった。

陸の上にある森や山、家や街、人間の生活の様子。

「人間ってすごいのね...」

「そうだね」

すると

『あぁ約束...』

といきなりあの声が頭の中をよぎった。

「ねぇケルピー」

「なんだい?」

「今から陸の方へ行ってみない?」

「陸!?」

私の言葉を聞いた途端、ケルピーはとても驚いたように後ずさりをした。

「沈没船とか海の上へ行くのはいいけど、わざわざ自分から人間に近づいて行くなんて...」

とケルピーはぶつぶつとつぶやいている。

「夢の正体がわかる気がするのよ」

そう言ってケルピーのヒレを握る。

するとケルピーも折れたのか

「わかったよ...」

と小さな声で言った。

「じゃあ行きましょ!」

こうして私たちは陸を目指して洞窟を出発した。