「マリナです...」
と自分の名を名乗った。
「よろしい」
そう言って人魚は笑うと
「私は海の魔女さ」
とこたえた。
「あの...」
私はなぜここへ来たのかということを魔女へと説明しようとした。
すると
「人間になりたいんだろ」
と魔女は不気味に笑いながら私の顔を覗き込んだ。
「な、なんでそれを...」
「私はなんでも知ってるのさ。お前が人間に恋をしてしまったということもね」
「じゃあ...」
「もちろん、お前の望みを叶えてあげよう」
「ほんとに?」
なんだか少し胸が高鳴る。
「もちろんさ」
そう言うと魔女は棚から瓶を物を持ち出し、中身を鍋の中へと放り込んだ。
どんどん鍋の中の色が変わっていく。
「これで大体は完成だ」
と魔女はそう言うとこちらにおいでと少し離れたところで見ていた私に手招きをした。
恐る恐る魔女の方へと近づく。
すると「早くおしっ!」と腕を引かれた。
「今から大切な話をする。よく聞くんだ」
と魔女は私の目を冷たい目で真っ直ぐに見た。
「え、えぇ...」
なんだかとても恐ろしい。
「今からお前を人魚にする。しかし薬を完成させるにはお前の言葉が必要なのだ」
「言葉?」
「つまり、誰とも会話をすることができないということだ」
「じゃ、じゃあ...」
「そう、言葉を交わすことができない」
言葉を交わせない...
「あともう1つ。お前が真実の愛のキスを彼と交わせばお前は一生人間となれる」
「真実の愛...」
「そうだ。しかし、彼が他の相手とキスを交わした瞬間、お前は海の泡となり消える」
「えっ」
海の泡となって消える...?
そんな...
でも私は彼に会いたい。
たとへ海の泡となって消えてしまったとしても少しでも彼の隣にいたい。
私はそう覚悟を決めてここへ来たのだ。
「それでも人間になるのかい?」
と魔女は私に尋ねた。
でも私には答えは1つしかない。
「私を人間にしてください」
そう私が答えると
「そうかい」
と魔女は笑うと、呪文を唱え始めた。
すると突然呼吸が苦しくなってきた。
全身に激痛が走る。
「さぁ行っておいで」
と最後に不気味な魔女の声が聞こえると私は気を失った。