「リンちゃんはいないのよね?」
「……だから、リンちゃんは旅行だって」
「ほんと、珍しいわねぇ。家族旅行なんて」
メリアは頬に手を当て、上の方に視線を向けた。
「あれ、リンちゃんはラウルさんのむぐっ……!」
ライムの台詞がレオによって中断される。
そんなこと言ったらロアの命がない。
「何? ラウルって誰なの、ライムちゃん」
ロアも青い顔して、口の前に人差し指をぴんと立てた。
ロアに背を向けているメリアには見えないのだ。
「いいえっ、なんでも!」
レオに開放されたライムは、慌てて首を横に振った。
メリアは器用に片眉を上げて、ロアの方に振り返る。
ロアはばっと指を下ろした。
「……ラウルって?」
メリアはいつもより低い声を発する。
ロアは姉から視線を逸らし、
「客」
と、一言言った。
「じゃぁ、そのお客さんと何があったの?」
「知らないよ。僕はリンちゃんを四六時中見てる訳じゃないんだから」
「あんた、一応親代わりでしょ。何か知ってんじゃないの?」
「だから、知らん」
「あたしの顔見て」
「目が腐る」
メリアは苦笑のような笑みを浮かべながら、こめかみに青筋立てて指を鳴らす。
「本当だって! 本当に知らねぇのっ!」
ロアの言葉遣いが珍しく悪くなる。
「あれ、あたしのせいだよね」
ライムはしょぼんと下を向く。
「だな」
レオはため息をついた。
そして、心の底から願う。
リンっ!
早く帰ってきてくれぇっ!