「ねぇ、せっかくだから追いかけっこしましょうよ」
フィルシアは全くさっきの話題と関係ないことを言い出す。
「いや、いい年して追いかけっこはないだろう」
ラウルは顔をしかめた。
確かに、二十代のいい大人たちが追いかけっこなんざしてたらちょっと引く。
「えぇー、やりたぁーい」
おいおいフィルシア、あんたいくつだよ。
「いいじゃん、やろう。俺、泳ぎは得意だから」
レイクは自信満々に胸を張った。
うん、まぁあたしも泳ぎは結構得意。
狙われても回避率は高いはずだ。
「わぁったよ。イル、やるぞ」
「はいはい。鬼は公平にレイクな」
イルはレイクの肩を叩いて行ってしまう。
「はぁっ? 何で俺からなんだよ!? 公平にだったらジャンケンで……」
「頑張れよー」
「ちゃんと10秒数えてね」
「あぁー、それじゃ」
あたしは戸惑いつつもレイクを見捨てる。
「おいっ! ったく、いーち、にーい、さーん……」
観念したのか、レイクは数えだす。
その数え声を聞いている頃、あたしは既に十mほど離れていた。
「久しぶりだなぁ、プール」
あたしはぐっと呑気に伸びなんてしていた。
10秒数え終えたレイクと目が合い、あたしが余裕だと思ったのかあたしの方に向かって来る。
「やばっ」
あたしは慌てて泳いで逃げ出した。