「……遠いところに行ったんだ。だから、もう戻って来ない」
あたしは目を見開く。
「もう……戻って来ないの?」
「……ああ」
「……お母さん、あたしのこと……嫌いになっちゃったんだ。だから、あたしを置いて行っちゃったんだね……」
あたしは父に抱きついたまま涙声でこう言う。
「違う」
「違くないよっ! あたしが好きだったらっ……好きだったら、あたしを置いていかないもん! あたし、お母さんになんか酷いこと言ったっ? あたし……お母さんのこと大好きだったよっ? どうして一人にするのっ……!?」
あたしは泣き叫んでいた。
父は下唇を更に強く噛み締める。
「……には……いるだろ」
「……え?」
あたしは父の顔を見上げた。
「お前にはお父さんがいるだろ」
父はきつくあたしを抱きしめる。
……そうだあたしは一人じゃない。
あたしにはお父さんがいる。
こんなにあたしを大切に思って必要としてくれる人がいる。
あたしは一人じゃなかった。
「うぅっ」
あたしは首を縦に振る。
父の手は驚くほど暖かかった。
父の存在が物凄く心強く、あたしを安心させる。
父のためならあたしは何でもしようと心に決めた。
父には心配もかけないし、わがままも言わない。
ただ父は傍にいてくれるだけであたしは安心できるから。