すると、いきなり部屋の扉が勢いよく開いて誰かが入って来た。

あたしは涙目でその人を見つめる。

「お父さんっ……」

父は入って来てぎゅっと強くあたしを抱きしめた。

何も言わず、ぎゅっと力強く抱きしめる。

「……お母さん、どうして喋ってくれないのっ? あたし……頑張ったのにっ……」

あたしは父に抱きついて泣きながら問う。

「……お母さんはもう……喋れないんだ」

父の声は震えていた。

「……どうして?」

あたしは父の顔を見上げる。

そして、息を呑んだ。

父は下唇をぐっと噛み締めて涙を流していたのだ。

いつもテレビでしか父の表情は見たことがなかった。

だから、あたしは父の笑っている顔しか知らなかったのだ。

いつも、疲れた表情を見せない父が、泣いている。

あたしはこのとき初めて父の涙を見た。