「あのね……お母……さんっ……」
あたしは涙声でこう言い、母の手をぎゅっと握る。
大好きなお母さん。
いつも元気な笑顔で、あたしに絶対に辛いと思わせるような仕草は見せなかった。
でも、いつでも母は病室のベッドにいて、窓の外をじっと寂しそうに見つめていた。
あたしは寝間着姿の母しか覚えていない。
いつか、あたしは母に「一人で寂しくないの?」と聞いたことがある。
けれど母はにっこりと優しく微笑んで「全然。私にはあなたにお父さんもいるでしょ」と、あたしの頭を優しく撫でて言った。
父はそんな母を心配そうに見つめていたのを、あたしは見ていた。
本当に心配そうに。
「お母さんっ! 話してよぉっ……!」
あたしは泣きながら母の白い布を取った。
そこには母の死顔がある。
けれど、そのときのあたしには母は寝ているようにしか思えなかったのだ。
「お母さん、起きて。また話そうよ……! あたしね、今日徒競争も一位だったし大玉転がしも一位だったんだよっ!」
あたしは母の手を強く握り締める。
けれど、母は目を覚まさなかった。
そこであたしは実感したんだ。
あぁ、あたしはもう一人なんだって。
誰もあたしの話を聞こうともしない。
母にも嫌われて、あたしはもう誰にも好かれてない。
誰にも、必要とされてないんだって。