「……悪い」
ラウルは申し訳なさそうに謝る。
「あっ、いいの。気にしないで。すっごく昔に事故で亡くなったの。だから、あたしはお母さんの顔すら覚えてないんだ」
あたしは笑顔でこう話した。
けれどラウルは未だに、申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「本当に、昔のことだから気にしないで」
「……ああ。でも、大変だったんじゃないか? お父さんも俳優なんだろ?」
ラウルはまだ表情を曇らせていた。
「うん、まぁね。お母さんの方の祖父母に育てられてたの。でも、あたしが高校に入ってから直ぐ二人とも亡くなっちゃったのよ。それで、高校の先生が自分の弟が近くで花屋をやってるからそこでバイトしないかって言ってくれたの。お父さん帰ってくるの真夜中だったし、危ないと思ってくれたみたい。花屋でバイトしてれば一人でいる時間も短くなるからって」
「その弟がまさか店長のロアさんか?」
あたしは苦笑しながら頷く。
本当に、ロアさんには迷惑かけてばっかりだ。
あたしの面倒にフィルシアさんのことも。
「色んな人と仲良くなれたし、バイトして良かったと思ってる。バイトしてなかったらラウルにも会えなかったし」
「ああ、そうだな」
ラウルは微笑んで頷く。
ラウルだけじゃない。
ロアさんにもレオにもライムにもリムにも会えたんだもん。
あたし、バイトして本当に良かったと思う。
メリア先生に感謝だわ。
「に、しても本当にうまいな」
と、ハンバーグを見つめてこう言う。
「買ってきたのか?」
「バカっ」
あたしはラウルを睨んだ。
そんなにあたしは料理が出来ないような顔してたのか?