ちょうど料理が出来たとき、部屋にラウルが入って来た。

「お帰りっ。今出来たとこだよ」

あたしは笑顔でラウルに言う。

「ああ、いい香りが外までしてた」

ラウルは脱力したようにソファに座った。

「本当? 迷惑にならなきゃいいけど」

異臭がしますなんて言われたら嫌だもんな。

「何作ったんだ?」

ラウルは立ち上がって、あたしが運ぶ皿を覗き込む。

「見りゃ分かんでしょ」

あたしはラウルを睨んだ。

「一見ハンバーグのように見えるが」

「ハンバーグだよ」

「中には魚が詰まってたり」

「っんな訳ないでしょうが! 嫌なら食べないでいいですよっ」

あたしはふんとラウルから顔を背けて、皿をテーブルの上に置いた。

「冗談。まずくても食わなきゃ殺される」

ラウルは後半部分の台詞を小声で言うが、あたしには聞こえていた。

「本気で殺すよ」

あたしはラウルをぎろっと睨んで包丁を持ち出す。

「嘘、嘘っ! 頼むから包丁は下ろしてくれ」

ラウルは両手を振って拒否する。

あたしは細い目でラウルを見、包丁を下ろした。

「いいよ、ラウルの分も食べちゃうからね」

と、椅子に座る。

続いてラウルも椅子に座った。

「だから冗談だっての」

ラウルは苦笑しながら箸を取りこう言う。

「いただきまーす」

あたしはそう言って、ハンバーグを半分に割って中を確かめる。

うん、中まで火は通ってるわ。

「いただきます」

ラウルは両手を合わせこう言い、ハンバーグを口に運んだ。

「……美味しい?」

あたしは心配になって聞いてみる。

「うまい、うまい。これなら毎日でも食える」

ラウルは優しげに微笑んでこう言った。

「ほんとぉ? ラウル俳優だから、美味しそうに食べる演技でもしてんじゃないの?」

あたしはまた半眼でラウルを見つめた。

「ほんと、ほんと! うまいって。お母さんに教わったのか?」

「ううん、あたしお母さんいないから」

あたしはハンバーグを口に運ぶ。

と、嫌な空気が流れた。