「あ、姉貴……」
この間が悪いときに! と、ロアは顔をしかめた。
ロアの姉のメリアは現在遠くの高校の教師をしている。
ちなみにメリアは本名。
『何よ、その嫌そうな声は。リンちゃん、元気?』
「あぁ、元気。今は知らない男の幼馴染に拉致されてどっかで旅行してる」とは口が裂けても言えなかった。
そんなこと言ったら、姉に何されるか分かったもんじゃない。
「元気でやってるよ。今日は休みだから店には来てないけど」
と、適当に嘘をつく。
『そうなんだー。でも、家に行けばきっといるわよね』
「はぁ?」
『あたし、明日には帰ってこれそうだから宜しく』
「え、ちょっ! 待て待てっ!」
『何、そんなにお姉ちゃんに会えて嬉しいか?』
「馬鹿っ。リンちゃん、今旅行に出かけてるからいないよ」
『そうなの? 残念。じゃぁ、ロウンさんもいないのかぁ。会いたかったのに』
メリアはリンの父のファンなのだ。
ロアは呆れたようにため息をついた。
「まぁ、そういうことだから。帰ってくるんだったら真っ直ぐ寄り道せずに帰って来なよ」
『はいはーい。じゃあね』
そう言って、メリアは電話の回線を切った。
ロアは机にうつ伏せる。
「どうかしたんですか?」
と、レオはロアに訊ねた。
「最悪だ。よりによってこんなときに姉貴が帰って来るなんて」
「ロアさんのお姉さんって、教師のメリアさんですか? あのリンをここに連れて来た人」
「そうなんだけど、リンちゃんが知らない人に連れて行かれたなんて知ったら多分殺されるな」
「メリアさん、いつ帰ってくるんですかっ?」
「明日。レオ、僕が死んだら後のことは頼んだ」
「嫌です」
レオは即答する。
ロアは深い深いため息をついた。