「じゃあさ、あたしはお父さんに似てるとこないの?」

あたしはふざけてこう問うと、父の表情は暗くなった。

難しい顔をして、呆然と宙を眺めてる。

何故そんな表情をするのか不思議だった。

あたしにだって、父に似てるとこくらい幾らだってあると思う。

「……似ていてほしくないな」

父は苦笑しながらこう答えた。

あたしは首を傾げる。

それは、自分の娘であってほしくないという意味なのか? 

それとも、自分のようにはなってほしくないという意味なのか? 

まぁ、自分の娘であってほしくないなんていう酷い親はいないと思うけど……。

あ、そういえば父はあたしが父の真似をすることを酷く嫌う。

それも、ある日突然そうなった。

何でかよく分からないけれど、あたしが父と同じような動作をすると物凄く哀しそうな表情を浮かべるのだ。

「お父さんって、訳分かんない」

あたしは細い目で父を見た。

けれど、父は相変わらず苦笑を浮かべてあたしを見ている。

その表情は、どこか哀しげで切なくも見えた。

あぁ、本当に訳分かんなくなってきたぞ……。

「いずれ分かるだろ。……分かったとしても……お前は今まで通りでいてくれるか?」

今まで通り……。

今まで通りの他にどんなことがあるんだ? 

どんなことがあっても、あたしは父の娘であり、父はあたしの父だ。

それはあたしが何歳になろうと、どんなことがあろうと変わらない。

「当たり前でしょうが。何言ってんの」

あたしはくすっと笑いながら答えた。父も同じような笑みを浮かべ、

「だな」

と、頷いた。

「今日はバイトか?」

「うん、もう行かなきゃ。お父さんは仕事、何時から?」

「昼までない。また晩飯は適当に作って食べてろ」

「了解」

あたしは敬礼のような仕草をして置いてあったバッグを持った。

「それじゃ、行ってきます」

「あぁ、いってらっしゃい」

父は優しく微笑んであたしに手を振る。

そして、あたしは清々しい朝の中に一歩踏み出した。