「ふぅん、じゃあ、あたしがもらっちゃおっかなぁー」
と、フィルシアはレオの顎に手をかける。
と、その瞬間、急にあたしは心臓が痛くなった。
どくん、どくんと、いつもより強い脈を打つ。
「……あぁっ!」
あたしは胸を押さえて地に膝をつく。
「どうした、リンっ!?」
レオは目を見開いてあたしの顔を覗きこんだ。
息が荒くなる。
どうして急にっ……。
「リンちゃん、どうしたのっ?」
フィルシアも驚いたようにあたしの背中をさする。
と、様子がおかしいと感じたのか、休憩室からもロアがやってくる。
「どうしたっ?」
「分からない。急に胸を押さえて蹲っちまって」
そうしてるうちに、だんだんと痛みは和らいでいく。
「……大丈夫」
あたしは息をなんとか整えようとした。
なんだったんだ、今の。
「どうしたの、リンちゃん? 具合悪いの?」
フィルシアはまだ心配そうにあたしを見ていた。
「分からない……急に……」
今ではなんでもない。
今さっきの痛みが嘘のように消えていた。
「で、君は?」
ロアは不思議そうにフィルシアを見る。
「うーん、お客かな?」
「今日はもう閉店しましたけど?」
「あ、違うの。あたし、リンちゃんを拉致しに来たのよ」
フィルシア、笑顔で恐ろしいことを言う。
「すいません、こちらは商品ではございませんので売れません。ましてや、盗みなんていけませんよ」
……おいおい、ロアさん。
あたしゃ確かに商品じゃないけど、物でもないぞっ!
「困ったなぁ、幼馴染のプレゼントにしようと思ったんだけどぉ」
「すいません、あたし、物じゃないですからっ」
あたし、たまらず反論。
「仕方ない。じゃ、力ずくで」
「……はっ?」
あたしが首を傾げると、フィルシアはバッグから時計のような物を取り出す。
そ、それはっ!
「っ!」
あたしがそれに気付いたのとほぼ同時に、ロアがそれだけを蹴り上げた。