花屋にはまだレオがいた。

「お前、本当に泊まるんだな……」

「当たり前でしょ。嘘で誰があんなこと言うの」

「でもさ、例え今日、明日、明後日に拉致されなかったとしても、そのまた明々後日だとかに拉致されるんじゃないか?」

「……あ」

そうだっ!

例えあたしがこの花屋に泊まってる間に拉致されなかったとしても、またいつか来るかも知れないんだ!

「最悪」

「馬鹿だろ、お前」

レオは灰色の瞳を細めてあたしを見た。

「うぅ、どうしよ」

と、困っていると花屋の扉が開いた音がする。

そこにはサングラスをかけ、大きめの帽子を被って鮮やかなワンピースを着込んだ綺麗な女性だった。

「あ、すいません。店、もう終わりました」

レオはその女性に向かってこう言う。

が、女性はにっこりと笑ってサングラスを外し、

「用があるのはリンちゃんよ」

と、あたしを見つめた。

あたしの顔からすっと血の気が引くのが分かる。

ふぃ、フィルシアっ!

「なっ、何でっ!? 明後日なんじゃっ……!?」

「えぇ、明後日になったわよ。あたしの方の時間ではね」

せ、セコいっ!!

「ってか、何でっ……!」

何でここにいることが分かったのよぅ!

「リンちゃんの考えてることは分かるの」

フィルシアはにっこりと微笑んでこう言った。

あ、悪魔っ。

悪魔の笑顔っ!

「さ、チケットは?」

「い、行きませんよっ! チケットがある場所も言いませんよっ!」

あたしはレオの後ろに隠れてこう叫ぶ。

「俺を巻き込むなっ!」

「あらぁ、やだリンちゃん。浮気はダメでしょ」

「う、浮気なんかしてないっ」

あたしはフィルシアを睨んだ。

「いや、俺はそう言うんじゃなくって、ただの仕事仲間だからぁ……ロアさん助けてくれっ!」

レオはあたしとフィルシアの間挟まれて、身動きが取れなくなっていた。

肝心なときにロアはどこに行ってんのようっ!