バイト後、あたしは洋服を取りに家に帰った。

と、家にはまた父がいる。

リビングで呑気にソファに座って、煙草をふかしていた。

「またいた」

あたしは呆れたように父を見る。

「俺がいたらいけないのかっ?」

父は煙草を吸いながら半眼であたしを見つめた。

「いや、そういうことじゃにけどさぁ……どうしたの? この頃仕事ないわけ?」

「あるよ。優先したい仕事があるから帰ってきただけだ」

父はそう言って煙草を灰皿に押し付けた。

「優先したい仕事?」

「そう。しばらくその仕事を優先するから、テレビには出ない」

「何よ、その仕事って」

あたしは首を傾げた。

「執筆活動」

父は机に置いてあったペンを持ち、こう言う。

「お、お父さん小説なんか書くのっ!?」

「俺をなめるなよ」

「なめないよ、美味しくないし」

「そっちじゃねぇよ」

父は呆れたようにあたしを見つめる。

そんな父に彼氏が出来たなどと言える訳がない。

あたしはしばらく黙っていようと思った。

「あのさぁ、悪いんだけど今日と明日、明後日は花屋で泊まるね」

「何で」

「仕事」

そう言わないと、絶対怪しまれるからな。

「俺はお前がいなくてもやっていけるけど」

「どうだかねぇ、寂しくなってもあたしの様子、仕事場まで見に来ないでね」

「見に行く価値なんかねぇだろ」

「失礼だなぁっ!」

あたしはむっと頬を膨らます。

「そんじゃ、行って来るね」

「へえへえ」

父は面倒そうにあたしに手を振った。

あたしは三日分の洋服が入ったバッグの、圧縮スイッチを押して縮ませる。

これで少しは小さくなって持ちやすくなるのだ。

そして、その圧縮したバッグを普通のハンドバッグの中に入れ、家を出た。