「いいえ。そうだ、リンは明日暇?」

「明日は、午前中だけバイトです。どうしてですか?」

「明日、近くの神社で祭りがあるんだよ。もし良かったら、一緒に行けないかなと思って」

「ラウル……とですか?」

危うく、また「さん」を付けてしまいそうになった。

「嫌か?」

「そ、そんなことないっ! あた、あた、あたしなんかで良かったら、ぜひっ!」

あたしは、慌てて両手で否定する。

「そう、良かった。久しぶりの休みだから、なんとなく行ってみたかったんだけど、一人は虚しいだろ」

「凄く嬉しいです! あ、でも、幼馴染さんとは行かなくていいんですか?」

「あいつは仕事。行きたがってたけど、さすがに仕事休んで祭りはまずいだろ」

ラウルは苦笑しながら言う。

「ラウルなら、あたし以外の女の子の知り合いは、沢山いるんじゃないですか? ファンの子だとか」

「いや、そうでもないよ。俺、あんまし町歩いてても気付かれないんだ」

あたしはぷっと笑った。

「笑うなよ。結構哀しいんだぞ」

ラウルは顔をしかめる。

「すいません。でも、きっといつかは有名になれますよ」

「そうだといいんだけどねー。厳しいからさ」

「頑張ってくださいね。えと、それじゃ、明日は何時に行けばいいですか?」

「そうだな、夕方の5時ぐらいは?」

「えぇーと、8月16日の5時ですね!」

あたしはメモ帳に予定を書く。

「あ、それと浴衣ある?」

「浴衣? ありますけど……」

「じゃ、着て来て」

「へぇっ!? いや、恥ずかしいですし……」

「平気、平気。雰囲気出ていいだろ?」

「じゃぁ、ラウルは甚平着て来てくださいね」

あたしは真っ直ぐラウルを見つめる。

「分かった、着てやるよ」

ラウルは赤面しながらも、強気でこう言った。

「明日、楽しみにしてますね」

あたしは、にっこりと笑って手を振る。

「ああ、それじゃ」

ラウルも同じように笑って別れた。