こんなとき、何があったのか訊かないロアの優しさが凄くありがたい。
「……でも、少しがっかりだなぁ」
ロアは急に、ぽつりと呟くようにこう言った。
「……ごめんなさい……あたし、がむしゃらに走ってたらあんな所にいて……」
「違うよ。僕はリンちゃんの逃げ場所は、いつもあの花屋だと思ってたんだ。僕にはなんでも話してくれると思ってた。もしかして、僕って頼りない?」
ロアは、本気で傷ついたような表情を浮かべていた。
「……そんなことないです。ただ、家庭のことなんで……ロアさんには、これ以上迷惑はかけられません」
「あのねぇ、リンちゃん。僕だって一応父親代理人だよ? そりゃ、姉貴に無理矢理押し付けられたからってのもあるかも知れないけど、僕だってもうリンちゃんのこと家族同然だと思ってるんだから。それとも、それは僕だけが思ってるのかな?」
「……ごめんなさい……あたし……」
なんて言えばいいか分からなかった。
ロアが自分を、そんなふうに思っていてくれたなんて思わなかったのだ。
ロアに申し訳なくて、ただ謝ることしかできない。
「まぁ、でも花屋に行っても、僕はいなかった訳だけどね。それを考えれば、あの街にいてくれて助かったよ」
ロアはふぅと白い息を吐く。
あたしは俯きながら、凍える身体を抱くようにして歩いた。
急いで家を飛び出してきたから、何も防寒対策してる暇もなかったため物凄く寒い。
「はい、寒いでしょ」
と、ロアはあたしに自分の上着を渡した。
「で、でもロアさんが……」
「僕は平気。さっきまでお酒飲んでたから、暑いんだ」
ロアはにっこり笑いながら言った。
お酒を飲んでいるわりには、ロアの顔は全く赤くない。
「じゃあ……ありがとうございます」
お言葉に甘えて、上着を受け取り羽織った。