ここがどこだか分からなかった。
ただ、がむしゃらに走って辿り着いたのは夜の街。
妖しげなお店が立ち並び、そこら辺に中年のおじさんや不良たちがいた。
こんな所に行きつけのバーとかがあれば、少しは逃げる場所があったのかも知れない。
あたしはため息をつきながら、電気に照らされて真昼間のように明るい道を歩いて行く。
「ねぇ、お嬢ちゃんこんなとこで何してんのぉ?」
すると、酒に酔った二十代前半の男たちに絡まれる。
あたしは無視して行こうとすると、無理矢理腕を掴まれた。
「何すんですかっ」
「ねぇ、お兄ちゃんたちと遊ばなぁい?」
「遊びません」
あたしは、睨むように腕を掴む男を睨んだ。
「あれ、君テレビに出てたよね!」
と、一人の男があたしを見て叫ぶ。
「あぁ! 俳優のロウン=サッチェスの娘だったよな! この前誘拐されてたっ!」
「は、放して! 警察呼びますよ!?」
「こんな夜の街歩いてたら、そりゃ誘拐されてもおかしくねぇよなぁ? 今度は俺たちが誘拐しちゃうぞー」
酒臭い息かかる。
ふざけんなと殴ろうと思ったが、いざ警察沙汰なんぞになったら困るのは父だ。
次の日の雑誌なんかにこのことが載れば、きっと大騒ぎになって父の俳優人生の幕は閉じてしまう。
そんなことになれば、あたしだってあの家に住めなくなる。