今まで、ずっと母は交通事故で死んだと思っていたのだ。

そうでなければ、あたしは母を殺したことになってしまう。

それに……父はあたしの……。

「……お前は悪くない。元々、お母さんは身体が弱かったんだ。嘘をついたのは、交通事故で死んだと思わせないと、お前は一生母親を殺したと自分を責める気がしたからだ」

「当たり前でしょっ!? あたしが……あたしが……」

頭の中に、寂しそうに病室の窓の外を眺めている母の姿が思い浮かぶ。

母の幸せを奪ったのはあたしだったのだ。

あたしの……一番好きだった人の幸せを……。

ラウル……あなたなら慰めてくれる……?

会いたい。

ラウルに……会いたい。

会って、確かめたい。

そう思うと、咳が込み上げてきた。

あたしは口に手を当てる。

すると、手には真っ赤な血がべっとりとついた。

「……お前……もうそんなに!」

非存在化が進んでたのか!?

父は、あたしの血がべっとりついた手を見て叫んだ。

「お……父さんっ! あたしに嘘ついてたのっ……?」

あたしは、辛さに顔を歪めながら父の顔を見つめた。

父は下唇を更に強く噛む。

それが一番傷ついた。

一番信頼してた父に、20年間嘘をつかれていたのだ。

父だけは信じていた。

どんなことがあっても、父だけは……信じてたのに。

あたしは涙を流しながら部屋を出て、裏口から家を飛び出した。

「リリーンっ!」

出て行く直前に父の声を聞いたが、あたしは家に戻る気なんてなかった。

手の甲で涙を拭いながらひたすら走る。