『フィルシア死去』
あたしは目を見開いたまま、その記事にを目を通した。
『――昨日の夕方5時23分に、元女優フィルシアことルーシー＝ウェアさん（30）が亡くなった。ルーシーさんは生まれつき身体が弱く、心臓病を患っていたということが発覚。本当であれば、子供を生むことも不可能だと診断されていた。だが、6年前娘のリリーンさんを産んで病は悪化したとみられている。夫である俳優ラウルさんは、「これからも、芸能活動は続けていこうと思う。これからは娘と二人で頑張っていくので、これからもどうか応援していただければ嬉しい」と、記者たちに言った。なお、ラウルさんはこれからは、本名のロウン＝サッチェスとして芸能活動の新しいスタートを切りたいとも述べていた――』
「……どういう……こと……？」
あたしの記事を持つ手が震えていた。
この記事に書かれていることの意味が全く分からず、ただ呆然と読み返すことしか出来なかった。
他の記事を見ても、全て見出しは同じようなもの。
『元女優フィルシア死去』
『ラウル芸能活動続行宣言』
『俳優ラウル改名』
あたしはそれらの記事をただ黙って見つめていた。
すると、玄関から父の声が聞こえる。
「おい、いるなら返事くらい……」
父は、呆然と記事を見つめるあたしの背に話しかける。
「……お父さん……お母さんは……交通事故で死んだんだよね……？」
あたしは確かめるような口調で、呆然とあたしの姿を見つめる父に訊いた。
だが、父は下唇に噛み付いたまま俯いて黙っている。
「ねぇ……お父さんっ……」
父は無言であたしから記事を取り上げ、箱に記事をしまっていった。
「……封筒の中、見たか？」
「お父さんっ！ 答えてよっ！」
あたしは父の洋服を掴んで泣き叫んだ。
