「リン、悪い。これから仕事が入ってるんだ。執筆ばかりやっていたから、仕事が立て込んでて」

あたしはにっこり笑って首を振る。

「気を付けて。でも、あたしはいつ退院できるの?」

「分からない。医者を呼んでくるから、そのときに訊きなさい。また夜に来るから」

「うん、分かった。頑張って」

「あぁ、本当に悪いな」

父はやや駆け足で病室から出て行く。

きっと時間ぎりぎりまであたしを見ていてくれたんだろう。

と、再び咳が込み上げてきた。

咳をしているときに、父が出て行った病室の扉がノックされる。

「はい……」

外から入って来たのはレオだった。

入って来るなり、目を見開いてあたしに近寄る。

「大丈夫か!?」

咳が止まらず、あたしは頷くことしか出来なかった。

と、口を押さえていた手に生暖かいものが付く。

レオはそれを見て更に目を見開き、あたしを見た。

「お前……」

「……お父さんには言わないで!」

気が付けば、あたしは叫んでた。

必死に願うようにレオを見つめる。

そして、紅い液体がついた手を握り締めた。

「お願い……」

レオは悔しそうにあたしを見つめ、下唇を噛み締めてゆっくりと頷く。

「ありがとう」

あたしはそっと安堵の息をついた。