「じゃ、俺はもう行くよ」
ラウルはリンが救急車で運ばれたことを確認すると、こう言ってその場から去ろうとする。
「……いいのか?」
レオはラウルの背に呼び止めた。
「ああ、リンが目覚めても……俺のことは黙っててくれないか」
ラウルは振り返らずに答える。
「……本当にいいんだな」
「ああ」
レオの二度目の質問に、ラウルは何の迷いも無く答えた。
「ありがとう……な」
レオは少しぎこちなく礼を言う。
ラウルはにっと微笑み、少し振り返って手を振り去って行った。
工場の敷地の出入り口に、見たことがある赤い高級車が止まっていた。
その前で、女性がにっこりと笑って待っている。
「乗りますか、お兄さん?」
と、女性はラウルに問いかけた。
「フィ、フィルシアっ……!?」
「乗らないなら帰っちゃおーっと」
フィルシアはそっぽ向いて車に乗り込んだ。
「あ、ちょっと待て! 乗るからっ!」
ラウルは慌てて車の助手席に乗り込む。
フィルシアは外にいるロウンと目が合い、少し微笑んだ。
「……さよなら」
と、ラウルに聞こえないように呟く。
「さて、出発進行!」
フィルシアは明るい口調でこう言い、車に付いているタイムマシーンの電源を入れてラウルと共に消える。
「……さよなら」
ロウンも同じように呟き、満天の星空を見上げた。