「疲れたぁ」

あたしは家に着いてため息をつく。

バイトが終わった後はいつもこんな感じだ。

暇なときでも、何故か脱力感を感じてしまう。

リビングに向かい、ソファにでも座って落ち着こうと思っていると、先客がいたみたい。

「お帰り」

「わっ、お、お父さん!? 何で、し、仕事は!?」

父はソファに座って煙草をふかしていた。

テレビからあたしに視線を移す。

「今回の番組は予定より早く終わったんだ。どうでもいいけど、お前は自分の父親を幽霊か何かと勘違いしてるのか? 人の顔見ていちいち叫ぶな」

父は不愉快そうにあたしを見つめた。

あたしは苦笑して、

「ごめん。だって、お父さん滅多に家にいないから。いる方が逆に珍しくてさぁ」

と、バッグを部屋に持って行った。

「ご飯、今作るよ」

「もう作った」

「へ?」

あたしは再びリビングにいる父の顔を見つめる。

「お父さん、熱でもあんの? 寝た方がいいんじゃない?」

「お前なぁ……」

父は呆れたようにあたしを見た。

だって、お父さんの料理なんて初めてだもん。

ってか、お父さん料理できたのねぇ。

「まずくても我慢しよ……」

「何か言ったか」

「別に!」

あたしは慌てて首を横に振った。

そして、冷蔵庫から料理を取り出す。

その料理はグラタンのように見えた。

と、いうよりグラタンだと思う。

「これって、グラタンだよね?」

「他の何か見えるんだったら、明日眼科に行け」

父は無表情でこう告げ、煙草を灰皿に押し当てた。

あたしは肩をすくめ、料理を一瞬で温めてしまうという電温ボタンを皿につける。

すると、グラタンは30秒も経たないうちに温まった。

科学の進歩ですな。

その昔は電子レンジだとかいう大きな箱で温めてたらしいけど、ボタンならそんな箱を置くスペースなんて要らないもんね。