今日は少し遠回りして帰ろう。
急にそう思った。
あたしはわざわざ遠い方の裏道に出る。
裏道は薄暗くて、少し気味が悪い。
だけど、家には帰りたくなかった。
やっぱり、家でもぼぉっとしていることが多くて、どうしても父に迷惑をかけてしまうのだ。
かといって、あんまり帰りが遅くなると心配されてしまう。
あたしはため息をついた。
「……ラウル」
会いたい。
何度もそう思った。
こんなに好きなのに……。
もし、ラウルが同じ時代の人間なら直ぐにキスしたことなんて許した。
許して、今も前のように二人でいただろう。
いや、今だってもう許してる。
ラウルがあたしを裏切るようなことするはずない。
きっと何か理由があったに違いないんだ。
だけど、もうあたしはラウルと会っちゃいけない気がする。
忘れなきゃ駄目なのに。
忘れたいのに忘れられない。
「すみません」
と、急に後ろから男性に呼びかけられた。
何だか少しにやけていて、ちょっと距離を置きたいと思わせる男性である。
「あ、はい」
「もしかして、俳優のロウンさんの娘さんですか?」
「えぇ、はい、まぁ……」
あたしは曖昧に頷く。
と、直ぐ後ろで大きな衝撃を受けた。
あたしは崩れるようにして倒れこみ、意識を手放した。